「やっぱり、新しく家族が増えるってのはまだよくわかんねえ。……でもそれでもこれからも一緒にいたいと思うこの気持ちに嘘はない」
わたしの手を握ったまままっすぐとこちらをみて、迷いなんかないという口調で続ける。
「……この先ずっと、一緒にいてほしい」
そう頬笑むあくのさんの笑顔はこれまで見た中で一番優しい笑顔で──言葉を返す前に頬をあたたかいものが伝った。
「泣くなよ、……いや、泣いてもいいか。別に、悲しいってわけじゃないんだもんな」
ただ、首を縦に振るしかできない自分に嫌気がさす。でも、笑いながら涙をぬぐってくれるあくのさんがやさしくて、もう少しだけならこのままでもいいのかもしれない、と少しだけ思った。
まだ涙は出ているし、もしかしたら鼻水も出ているかもしれない。お化粧だって崩れているだろうし、たぶん、ひどい顔をしている。
でもそれでも、いまこの瞬間、目の前の人と二人で他の誰よりも幸せであることはわかっていた。だから、流れるものはそのままに、人生の中で一番しあわせに満ちたであろう、笑顔が溢れたのはもう、どうしようもないことなのだ。
「あくのさん、……大好きより、だいすきです」
目尻に落とされた唇が少しだけ照れ臭かったけれど、そのまま抱き寄せられる腕にドキドキしたけれど──落とされた吐息が少しだけ震えていて、抱き寄せた腕が固くて。
ああ、わたしは、この人と家族になります。
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