うたうのが楽しい。バンド活動が楽しい。アイドルだって、楽しい。楽しいことが多すぎて、すっかりこの感覚を忘れていた。
 瞳を閉じるとじわじわと這い寄って来る昏い闇。自分がどこにいるか、誰なのかもわからなくなる。光が見えて走ろうとしても、足元がナニかに囚われていて前に進めない。
 やっとのことで一歩を踏み出しても、その先がなにもなくてただただナニかにのまれていくだけ。ぞわぞわとした闇が身体中を這い上がって、やっと目の前に現れた光に手を伸ばした瞬間――ぱちりと目が開いた。いつのまにか寝ていたようだった。
 のどがペタりとはりついて、ひゅーひゅーと鳴る。声がでなくて、水を飲もうとダイニングへ降りた。
 水でのどを潤して、ため息を一つだけこぼす。『サイアク』、とそう呟こうとして、口から出たのはただの吐息だった。

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