抱き寄せた腕の中に、重さも香りも感じなかった。まあ、それはそうだ、夢の中なんだから。
 俺が彼女を腕の中に閉じ込めるなんて、ありえないことだ。そう、ありえない。
 だからこそこんな夢を見るのだし、起きたときにはひどくむなしくなるのだ。むなしくなるとわかっていても夢の中で抱き寄せるその腕を止められないし、止めたいとも思わない。
 ただ、抱き締めるだけ。その、『だけ』ですらいかに難しいか。怖々と抱き寄せて、拒否されないことに安心して力を込める。でも、寄りかかる重みも、熱も、香りも、なにもかもが空虚でただただむなしくなるのだ。
 この腕で抱き寄せられたら、と思えど叶うはずのない、叶ってはいけない想いに蓋をして、今日も俺は夢を見る。


昨日も今日も、明日も明後日も。