「なに? そんなこともわからないわけ? さっきやったばっかりデショ」
 虫けらを見るみたいにこちらを見下す月島は、自分の問題から視線をあげていた。いつも愛用してるヘッドフォンは鞄へと仕舞われているらしく、首もとがいつもよりもさみしく感じる。
 向こう側からこちらの手元を覗き込むようにして身を乗り出し、はらりと落ちた髪を少し煩そうに耳にかけた。
「だからここが違うんだって。……王様聞いてる?」
 その体勢のまま視線だけをあげるようにしてこちらにむく。ねめつけるような視線ではあるけれど、上目遣いのような視線になって必然と鼓動が早くなっていく。
 段々と怪訝な顔付きになっていくのは見ていてたのしいのだけど、このままだと怒られて勉強を見てもらえなくなるだろう。それは困る。
 眉間にシワが寄ってることを自覚しながら、手元のノートに視線を落とした。違うと指されたところが指摘されてもよくわからない。
「どうちげぇんだよ……よくわかんねぇ」
 唇がとがるようになるのはくせだと、いつか月島に言われた気がする。そのくせが出ていることを自覚し、俺と同じくらいのしわを眉間に寄せて(ああ折角の綺麗な顔が台無しだ)だから、とペンを俺のノートに走らせた。
 少し癖のある字は、でも読みやすくて。
 耳にかけた髪がはらりと落ちて、それを無意識のようにかけると、こめかみのあたりが視線に入って、吸い寄せられるように唇を寄せた。
 ガッタン、という音でふと我に返ったら、ずさぁ、と後ずさったように椅子を後ろに倒した月島が顔を真っ赤にして立ち上がっていた。
「何してるのバカでしょバカなんでしょっていうかそうだよね馬鹿だから僕に教わってるんだよねそうだよね教わってるっていうのに何してんのもうヤダばか!」
 何回バカって言われたのか分からないけど、最後のバカはかわいかった。
 ばかにされてるのに、イラつくわけではなくきゅんとくるのはどうしてだろう。
「なんか……かわいくて」
 ぽろりと本音がこぼれると、月島の顔がさっきよりももっと赤くなってばかじゃないの!? と叫んだ。
 わりぃ、と思わずいえば、キッとねめつけ、勉強してるんだから集中してよと真っ赤な顔のまま言ってのける。
 とりあえずそこ直して! と言って倒した椅子を戻すために後ろを向いてしゃがむ月島の耳はまだ赤くて、集中しろと言われたのにその耳を食みたい、と思ってしまった俺は、また怒られる前にとノートに視線を落とした。
 無事今日の範囲が終わったら抱き寄せても文句は言わないだろうか、と椅子に座りなおした月島の頬がまだ少し赤いのを見て、そう思った。

勉強会

(かわいい、だなんて)(無縁の感想だと思ってた)