「……かずのばか」
 電源をつけて光らせた画面に期待した通知がないことを確認してそのままスマホを床に、自分の顔を立てた膝に伏せた。部屋にはくもんが寝ていて、明るくしたりしゃべったりしたら起こしちゃうかな、と思ったから屋根の上だ。
 お月さまはきらきらして、優しくさんかく屋根を照らしてる。寮の目の前の道には人気がなくて、じとりとしたため息が漏れた。
 かずは今日も合コンだった。いつもはだいたい日付けが変わる前くらいには「これから帰るよーん☆」なんて連絡がきて、それから玄関でかずをお迎えしてるのに、今日は日付けが変わってもう一時間くらい経つのにまだ連絡すらない。駅まで迎えに、と思っても、もう電車も動いてない。どこでやってるのかなんて知らないから、お店までいくこともできない。
 ……かずは飲んじゃったらオレのことなんて忘れちゃうのかな。
 そんな思いが頭を過る。立てた膝をぎゅっと引き寄せて、もう一度だけちらりとスマホを見た。──もちろん、期待した通知は来ていない。
 持ってきていたおにぎりをじっと眺めて、今日はもう自分で食べてしまおうと手を伸ばした。ぱくりと食いついたそれは、いくぶんかいつもよりもしょっぱい気がして、首をかしげる。
 いつも通りにふったのになぁ、お塩。
 不思議だったけれど、いつの間にかそばにいたねこさんに『いたいの?』と聞かれて納得した。──オレ、泣いてたんだ。
 いたくないよ、さみしいだけだよ。そんなお返事をしながらねこさんの頭をそっと撫ぜた。ぺろぺろと舐めて慰めてくれるねこさんにお礼を言って、今日はもう戻ろうと決める。
「……かずのばか」
 いつも連絡くれるのに。……約束は、してないけど。もう一度だけこぼしたさびしげな声は、お月さまとねこさんだけが聞いていた。

しょっぱいおにぎり

 充電が切れて、充電器もともだちに貸してしまって足りなくて、それで連絡できなかったとすごく申し訳なさそうに眉をさげたかずに、昨日の言葉をもう一度投げた。おわびにってさんかくをくれるより、かずがちゃんと帰ってきてくれるほうが嬉しいんだよ。そういったらかずはどんな顔をするのかな、なんて。