「好きだよ、……トモダチとしてじゃなくて、家族になりたいって意味で」
 厳重に、何重にも鍵をかけた引き出しにしまい込んだ言葉のはずが、なぜかするすると出てくる。まるで、自分の意思が効かない人形のように。
 そのことばに言葉に、ふにゃっとやわらかくくずれた顔は「オレも、」と、そう小さく溢した。
「……オレも、かずの家族になりたい。かずのこと、だいすき!」
 ぶわりと舞い上がった感情と熱は、確かに自分のものであるはずなのに、どこか一枚硝子を隔てたような不鮮明さを感じる。それでも目の前の出来事が止まることはなくて。
 ふたりで顔を見合わせて笑いあって、確かに幸せなのに。なんでこんなに他人事のようなんだろう。──いや、他人事であったとしても、もっと身近に感じるはずだった。
 そうして、そっと近付いた距離がゼロになって。思い切り抱き締められて。口からは「痛いよ、すみー!」なんて笑う声が出るのに、まったく痛さを感じないことに気が付いた。気が、付いてしまった。
 そう、つまりこれは──夢なんだ。ほっとしたと同時に、ぞっとした。こんな幸せな夢を見てしまって。こんなに愛しいという思いを隠さずに伝えて、伝えられて、それが成り立ってしまう世界に一瞬でも身をおいてしまって。
 ──起きてから、これまでのような生活がちゃんと送れるの?
 絶対に、無理だ。そんなの、わかりきっている。
「ごめんなさーい! ……これで痛くない?」
 そう言って腕をゆるめたすみーを前に、オレはもう、願うしかなかった。

引き出しにしまい込んだ言葉

「どうか残酷に、この夢を終わらせて」って。