その演技が終わった瞬間、ふぅっと息が漏れたことで呼吸が止まっていたことを思い出した。自分の呼吸すら邪魔になるくらい、すべてが飲み込まれる演技だった。
 練習着で、稽古場で、エチュードをする。
 いつもとなんら変わりのないシチュエーションにもかかわらず、空気が、色が、すべてが存在している演技は、圧倒的に心を掴む。ぐしゃり、といっそ握り潰されるくらいの勢いで掴まれた心は、高揚からか速度を速めて拍を取っていた。
 早く、早く筆をとりたかった。こんなにも心が震える演技を、作品を魅せられて、なんの意欲もわかなかったらUMCウルトラマルチクリエーター失格だ。

 ゆるりと解けた空気が、すみーをいつもの幼い雰囲気に見せている。演技の最中の、『まるで別人のようだ』が彼にとって誉め言葉になるのかはわからないけれど、役の人格を持っている多重人格者のようにカチリと切り替わり、自然と周りを巻き込む。
 心を震わせる、『魅せる』演技が本当に上手いのだ。
 オレも、絵でもデザインでも写真だって演技でだっていい。どれかひとつでも、『魅せる』ことができているだろうか、と意欲が溢れる反面、ひどく悔しく思う。

 すみーが認めるくらいすっごいさんかく、絶対表現してやる! と改めて勢い込むのだった。

魅せる

(その方向性が明らかにおかしいことに、)(当時オレはまったく気が付いていなかったのだ)