悲しいと思えること自体が幸運なのかもしれない。だって、悲しいって思えるってことは、嬉しいとか幸せとか、ポジティブな感情を感じてないと感じることができない感情だからだ。
 だからと言って『悲しい』ことを受け入れられるかと言われれば否。だって、悲しいものは悲しい。変にドクドクと心臓が音を立てて動いて、妙な汗が出て。ぐるぐるとまわる『悲しい』が、どうすれば落ち着くのかわからなくなる。
 ふ、と視界を過った浅縹色に思わず抱きついた。
「かず?」
「ん、」
 すみーの背中に耳をはりつけて、トク、トク、と緩やかに奏でられる心音に、身体の中を廻る『悲しい』が徐々に解かれていくのが感じられる。ぎゅっと握ったパーカー、その手の上からやわらかくぽん、ぽん、と撫でられるすこしかさついた手に、ほぅ、と身体の中を廻っていた『悲しい』がこぼれた。

『かなしい』の吐き出し方