寮を出て一人暮らしをするときに重視したのがセキュリティだった。さすがに、あんなにテンテンやカンパニーの皆をインステにあげてたらヤバいってわかる。身バレこわい、なんて言っていたいたるんの言葉の意味が今になってわかった。まぁ、インステに写真をあげるのはやめないんだけどね。
 コンシェルジュがいるマンションなんてさすがに契約できないから、せめてと思ってオートロックのついたマンションにした。裏口からも入れない、ちゃんとしたやつ。たまにオートロックなのに裏口からは普通に入れちゃうトコもあるからね。ちゃんと内見したときに確認しました。
 で、そんなマンションの一室をアトリエにしているオレは、一段落ついた絵から離れて切なく鳴いているお腹を満たそうとキッチンに立つ。対面式なので、向こう側にダイニングと窓が見える、だけのはずだった。マンションの十三階だもん。
「すみー!?」
 慌てて窓に駆け寄ると、へにゃっと笑いながら手を振ったすみーの口がかず、と動いたのがわかった。窓の鍵を開けて、中に入るように促すと、「おじゃましまーす!」と言いながら靴を脱いだ。うん、帰るときはちゃんと玄関から出てってね、すみー……。
「どしたの?」
「ん〜、なんかね〜、さんかく探ししてたら、いつの間にか近くにいて、かずちゃんとご飯食べてるかな〜とか、かずちゃんと寝てるかな〜とか、心配になったから来ちゃった!」
 にこにこと笑うすみーに、苦く笑い返しながら今から食べるトコだよん、と返す。おにぎり!? ときらきらさせた瞳を向けるのだから、じゃーおにぎりにしちゃおっか! とあるだけボウルを取り出して、色んな味のおにぎりを二人でたくさん握った。
 きっちり大きなサンカクのすみーが握ったおにぎりと、すこーし小さいゆるめサンカクのオレが握ったおにぎりの二種類が並ぶ大皿をダイニングテーブルの真ん中に置いて、二人で向かい合って座る。ぱちん、と目と手をあわせて、いただきます、とハモってから大皿に手を伸ばした。
 一人で食べるより、二人で食べる方がおいしいね。
 いつだったか、そう言ったすみーは、にこにこと両手でおにぎりを持って大きく頬張っている。確かに、一人で食べるよりも、二人で食べる方がおいしい。それが、好きな人ならなおさらだ。
 一人で食べようとした、手の込んだ食べ物よりも、いま、二人で笑いながら作って食べているおにぎりの方が、何万倍もおいしいんだろう。満足気に目を細めるすみーを見ながら、オレもきっと満足気に目を細めているんだろう、なんてこっそり笑って、ごちそうさまの挨拶のために手をあわせた。

オートロックだって意味がない