あのね、かず。オレ、しってるんだよ。こわいことなんて、なーんにもないってこと。だから、はやく。

 ふわふわと風にあおられて形を変える雲は、うまいことさんかくになってくれなくて残念におもう。さっきねこさんがさんかくの石をくれたから、すこしだけ。
 寮のさんかく屋根にのぼって空をぐっと見上げるのは、今日みたいな天気のいい日には、すごく気持ちがいい。すっと二階の廊下を影が通って、思わず覗きこんでこんで声をかけた。
「かーずー!」
「すみー? あっ上か!」
 ぱっと咲いたように上──オレを見上げるかずの笑顔がかわいくて、オレまでにこにことしてしまう。くる? と上を指せば、すみーが手伝ってくれるなら、なんて苦笑しながら言うから、オレは張り切ってかずを引き上げた。
 たっけー! なんて言いながら、ぎゅっとオレの服のはしっこを握ってるかずは、もしかしたらちょっとだけこわいのかもしれない。頼られてるって思ったら、なんだか胸のおくがぎゅってなって、かずの手をしっかり握った。大丈夫だよ、って意味を込めてわらえば、かずもへにゃって笑ってくれる。
「……すみーは、なにしてたの?」
「ん〜……ねこさんとお話ししてー、くもがさんかくにならないかな〜って空みてた!」
 そっか、なんて言いながらぎゅっと握り返された手に、なにか言いたげにむずむずと口を動かすようすに、かずにばれないようにくすりと笑う。かず、オレ、しってるよ。
 すみー、オレね、そう言ったあと続かない言葉に、こわいことなんてなんにもないよ、って意味を込めてじっと横顔をみつめた。かずのお耳、真っ赤だ!
「……かずー?」
「う、ごめんすみー。……ちょっとまって、」
 手をつないでない方の手で顔をおおって隠してるかず。でも、真っ赤なお耳は隠れてない。そんなかずを見てるのも楽しいんだけど、それでも待ちきれなくなってきて。
「かず、あのね、オレ──」

来ないのならばこちらから

 かずから来ないならオレから。ね、だからかずはうなずくだけでいいんだよ。だから、ね?