無意識に腰を下ろした場所が悪かったとしか思えない。いつものように、テンテンとすみーの間に座っていたし、円になった目の前はゆっきーで、本当にまぎれもなく昨日までのミーティングと同じ位置取りだった。
 にもかかわらず、オレの左からはじわりじわりと熱が伝わってきていて、いやこれもそんなに不思議なことではないのだ。稽古終わりなんて、汗かいてじっとり熱を放っていたってなんの不思議もないんだもん。でも、今伝わってきている熱は、そういう稽古終わりの熱なんかじゃなくて、なんていうか、こう、うん、妙な気持になる熱だ。
「おい一成、なんか言いたいことあるなら言えよ」
「んーにゃ、ダイジョブだよん! あっ、でもフライヤーデザイン案がいくつかできてるから、明日のミーテのときにでもみんな意見きかせて☆」
 テンテンに不審がられてとっさに出た言葉は、もともと言おうと思っていたことだったので、特に問題はない。ただ、そわそわとオレの意識を侵食してくる熱だけが、じっとりと圧迫感を持っていた。
「わかった。みんなもそれでいいな? 監督から特になければ、今日のミーティングはこれで終わりだ」
「うん、私からもないよ! みんな、お疲れ様。寒くなってきたから、汗はちゃん拭いてね」
「はーい!」
 イイコちゃんな返事をしたすみーは、素知らぬ顔で笑っているけれど、ただオレの方に放つ熱だけが焦燥感をあおる。じゃあおつピコ〜! なんてすぐさま立ち上がったオレは、お風呂に入るための準備をしに部屋に戻ろうと、逃げるようにレッスン室のドアを開けた。追いかけるように上がった「かず、」という呼び声に、内心(きてしまった、)と冷や汗をかきながら、不自然なくらいぴたりと足を止めた。
「あとで、お部屋で待ってるからね〜?」
「あれ、今日はカズくん、三角さんのお部屋にお泊りですか?」
 オレが答えるよりも先に、むっくんがきょとんと問うてしまった。すみーがにっこりと、「うん、今日はかずとふたりでお星さまみるんだ〜」なんて言うものだから、むっくんは目を輝かせて、「わあ、素敵ですね! 今度は夏組みんなでみましょうね」とオレの退路を笑顔で絶った。
 いや、行きたくないわけじゃない。ただ、心の準備が終わらないだけだ。
 そんなことを言って待たせた結果、すみーは今日の強攻に出てしまった。どうしてもうまく決まらない笑顔で、「そだねん」とむっくんに答えた後、すみーにあとでね、としっかり伝えてからレッスン室を今度こそ出た。すみーの笑顔がそれこそ輝くようだったのは嬉しいんだけどさ。
 いや、でも、キスってこうやって予告するものだったっけ? なんて疑問は、心の準備が終わらずに一年近く待ってもらっているオレには問う資格がなかった。

星降る丘で

 ……それでも、星が輝く空の下でみたすみーがあまりにも綺麗すぎて、自分から重ねてしまったために拗ねたすみーをなだめるのは、存外幸せな悩みだったのだ。