そっと右側に熱が近づいて、触れるか触れないかのぎりぎりで止まった。ほら、いつもみたいに「ねえ聞いて聞いて、」なんてテンション高そうに話しかけてくる。その話を聞きながらうんうん、とうなづいて笑って、身振り手振りで語る姿をにこにこと眺めた。
 さりげなくそっと伸ばされた手が触れる直前、一瞬だけ戸惑ったように止まり、震えたのを抑えるようにその手を取る。ぴくり、と注意しないとわからないほどすこしだけ震えたその手は、ぎゅっとオレの手を握り返した。
 にっこりと笑って「よかったねー」と目をじっと見つめると、その頬は少しだけ色付いて見えた。これで気が付かれていないと思っているんだからおもしろい。うーん、それは寮のみんながそう思っているみたいなんだけど。
 オレは、「かずがオレのことを好き」ということを知っている。
 かずは、オレが「かずがオレのことを好き」ということを知らないと思っている。
 かずは、「オレがかずのことを好きだと思っている」ということを、知らない。

鈍感なふり、しているだけ。

 なんで知らないふりしてるのかって、そんなの――かずがかわいいからに決まってるでしょ? なーんて。