瞬く間に出来上がっていくさんかくに、目をまるくする三角。出来上がっていくさんかくを、誇らしげに描き上げる一成。二人は夏組の年長組であり、そして『バカ三人組』のうちの二人だ。あと一人はうちの組のワンコ。それは今関係ねェから置いておく。
「かず、すごいすごい!」
「でしょでしょ〜? これはもうすみーに見せなきゃ! って思ってさ〜」
 興奮したように一成に飛びつく三角に、その飛びつかれた本人はいやに楽しそうだった。
 今日、一成と一緒にとっていた講義のうつくしい芸術という項目で、三角もこの授業なら真面目に聴けるのだろうと思えるくらいに「さんかく」を題材にしたものについて学んだ。前回は「まる」、ちなみに次回は「黄金比」。毎回テーマが変わっていくのが面白くて、ついつい聞き入ってしまう。
 その講義の中で、教授が『美しい三角形を描くには』という雑談を挟んだのだ。斜め前で自分の学科の友達と座っていた一成が、ぱっと目を上げてそれまでよりもいっそう熱心に聴いている姿が目に映って、そうしてしっかりとメモを取る。その一連の流れを見て、一成の友達はマジメだな、なんて言っていたけれど、アレはこのためだったのかとあきれ返ってしまうしかない。
 ちなみに俺はというと、至さんにゲームで負けてコーラをパシられてるところで、たまたま談話室で繰り広げられていたそれを横目にキッチンに入っていくところだった。『いたる』と書かれたコーラを手に取って、ついでに自分の分のコーラも一本手に取る。キッチンを出て、談話室を横切るときに目に入った光景に、自分の認識を書き換えるしかなくなった。
 これまで、一成は不毛な想いを抱いているのだと思っていた。そう、不毛。だって、あの三角相手だぞ? 女の監督ちゃんより猫のほうが勝率が高そうだし、もっと言えば三角形の方が断然勝率は上だろうと思っていた。それなのに。
 ――あの瞳。
 三角形の浮かぶ瞳はキラキラと一成を映し、そうしてどう見ても『いとしい』とその目が言っていた。
 へぇ、一成よかったじゃん、なんて思ったのもつかの間、三角の再度の抱擁によって一成の手からペンが吹っ飛び、そして運悪く俺の持っていた至さんのコーラをはじいた。ころころと転がるコーラ、あーあ、やっちまった。
「わー、ばんりごめんなさーい! 大丈夫〜?」
「セッツァー大丈夫!? ホントごめん……!」
 はぁ、とため息一つついて、ペットボトルを拾うと、これを開けた至さんが無事でありますように、と祈るしかなかった。
「至さんに怒られたらお前らのせいにするからな。……気をつけろよー」
「はぁーい」
 いい返事をした二人を置いて至さんの部屋へ戻ると、さっそく自分の名前の書かれたコーラを手に取る至さん。俺が止める暇もなくそれを開けて、そう、その顔面はびしょびしょになったのだった。
「……万里? これは、どういう嫌がらせ?」
「ごめん至さん、でもそれは俺のせいじゃなくて、」
 事前の予告通り、二人を生贄に、俺はコントローラを握りなおすのだった。

『美しい三角形を描くには』

 ふん、と鼻で笑った至さんは、それでもタオルでふいただけでやっぱりコントローラを握りなおした。顔、洗わないとベタベタになるっすよ。