ひっそりと開いた唇が、色を吐き出す。ウイスタリアの花が散るような、そんな色を乗せた声は「かずの中のオレがみてみたいなぁ」と紡いだ。他人の中の自分が見てみたい、とはまたこれいかに。言葉遊びの一種だろうか?
「オレの中のすみー、ってどういうこと?」
「うーん、そのままなんだけど……かずが見るオレ?」
 いや、疑問形にされてもわかりかねるって。オレが見るすみー、ね。
「オレからすみーがどう見えるかってこと?」
「ん〜……ちょっとちがう気がするー。でもそれも教えてほしいなー」
 ちらちらと主張するサンカクが瞳の奥に見え隠れしていて、宵待草の中の名月が輝く。ミスティブルーとレイニーデイが揺らめく糸の奥から強く輝く名月は、はぐらかすことを許してくれそうになかった。しかし、改めて問われると答えるのに窮する。
 どう答えたら適当なのか、というよりも、どう答えたら一番自分の感覚に近くなるのかかわからなかった。オレから見るすみーをうまく表す言葉が見つからない。
「なんて言ったらうまく表現できるかわかんないけど……うーん、なんだろ、」
「うん」
 すみーは、『ちゃんと聞いてるよ』と言うことを表すかのように声に出して頷いた。――ああ、これが一番近いかもしれない。
「お月様、とかかな。こう、寄り添って待っててくれるってカンジ? が一番近いかも?」
 きょと、と瞬く瞳が、まんまるになってまるで満月だ。ちゃんと、急かさずじっと、さりげなくそっと『オレの答え』を隣で待っていてくれる。そんなお月様が、一番うまく表現できている気がした。
「お月さま、かー」
 くふふ、と笑う瞳の奥のサンカクがきらりと煌めいて、あたたかい光で照らしてくれている。そんなところも、お月様のようだった。

ウィスタリアの花が散る