ふっと意識が浮上した瞬間に流れていた曲の歌詞を拾って、気が付いたら頭の中で文字に起こしていた。クラッシクな明朝体でフォント化された『踏み出せなかった一歩も、歩いてきた過去になったんだ』という一文は、思いの外しっかりと頭の中に刻まれたようだった。
 過去、ああしたい、こうしたいと思ったことはたくさんあった。それでも、一歩踏み出せずに来たことも、踏み出せたこともあった。そうして、すべてそのタイミングでやってきたからこそ、今ここに自分はいる。そう思えば、踏み出せなかった一歩は、確かにこれまで歩んできた『過去』という道程の一歩であると言えた。
 今、こうして友達になれたことも、本音をこぼせる仲間がいることも、やりたいと思えることがたくさんあることも。すべて、あのとき踏み出せなかった自分がいるからだと思えば、あの頃の自分がひどく愛しく思えるのだった。

踏み出せなかった一歩