夏が終わり、すっかり秋めいた風がからからと吹く中、冬の足音はすぐそこまで迫ってきていた。駅から寮までの道すがら、道端を彩る色がどんどんと減っていく。秋めくほど濃く激しい色になり、そこからぱたりと色が絶えていくのが、冬の醍醐味だと一成は思っている。
 朝晩はよく冷え、秋めいているとはいえ防寒は冷え性気味の一成には必要だった。冬まで使えそうなあたたかい、それでも秋らしいこっくりとした色合いの大判ストールを鞄から取り出し、ばさりと肩にかける。こんなに寒くなるなら、もっと早く帰路に着けばよかった、と後悔したところで時間は巻き戻らない。思わず吐いて出た息は、まだ白くはなかった。
 駅から寮までの間に、花屋は三軒ある。うち一軒は、同じ劇団員の紬が知り合いの劇団を観に行くときに寄るため、カンパニーには顔馴染みとなっている花屋で、もう一軒はいわゆるチェーン店の、流行の花や有名な花が多い、規模としては中くらいの花屋。最後の一軒は、いかにも個人経営、といった体の小さな店舗で、それでもややマニアックな品種を多く扱っている花屋で、一成はこの花屋を覘くのが好きだった。見たこともない花が並んでいる中に、ふと見慣れた花が混じっているのが、殊の外感情を揺さぶってくる。まあその見慣れた花というのも、劇団に入ってから覚えたものが大半なのだが。
 今日一成の目を一際引いたのが『夕陽』と呼ばれるダリアで、花弁が黄色からオレンジまでのグラデーションを綺麗に表しているものだった。同じ夏組の、友人の瞳を思い出すような色合いの、しかもその友人のイメージとされているダリアの花。
 手に持っている端末ではなく、瞼の奥に焼き付けるように心のシャッターを切った一成は、店主に挨拶をして店を出た。瞬きをするたびに鮮明に浮かぶ上がる花に、様々なイメージがわいてくる。
 両の手で握っていたストールは相も変わらず熱を与えてくれていたが、すでに不要なほど、一成は興奮で温まっていた。

夕陽