祭囃子が寮にまで届いて、参加していないみんなもどこか浮かれているように見える。祭囃子ってどうしてこう気分をあげるんだろうね? すごく、日本人っぽいな〜って思うけど、ロンロンやガイガイもどこか楽し気にしているから、人間に染み付いたテンアゲな音ってやつかもしれない。
 一人、部屋に籠って作業しているのが馬鹿らしくなるくらい楽し気な音に、ひとつため息をこぼした。やる気、失せちゃったなぁ。椅子に頭を乗せて、思い切り後ろにそらせると、柔らかい満月に浮かぶサンカクとぱっちり目があった。アレ、いつの間にいたの?
「かず、休憩〜?」
「んー、そだね、きゅうけーい。なんか楽しそーな音聞こえるから、部屋に籠ってるのもな〜って思ってさ」
 ぱっと輝いた満月は、そのままオレの手を取って、「それじゃあ、屋根の上から一緒に見よう?」と笑う。それにオレも笑い返して、こっそりと屋根に上った。
 祭囃子が聞こえる方向は、普段とは比べ物にならないくらいに煌々と輝いていて、それでも温かさのあるぼんやりとした明かりなのがどこか懐かしさを感じさせる。ノスタルジックって、こういうことかな。

祭囃子を背景に

 二人並んで、詳細なんかわかりもしない祭りの様子を眺めて、笑いあって。そうして、つないだ手だけが祭りとおなじ温度を共有していた。