好きなんだ、と言われたときにまず思ったのは、どこの誰だということだった。名前も名乗らないなんて、自分のことを知っていて当然だってその態度がまず癇に障ったのだ。
 言葉を濁しても嫌がっても、自分が好かれないなんて思ってもいないその態度が、ひどく不快にさせる。腕を取られて、ひどく気持ちが悪くなった。
 触らないでよ気持ち悪い、だなんて思わず口から出そうになって、思わず口をつぐんだ次の瞬間に別の方向に体が引っ張られた。その温度に、においに、ひどく安心してからなんでこいつがこんなことしてるんだという不安にあおられる。
「コイツ、俺のだから」
 そう言い放って僕を引っ張っていく。なんで、なんていったところで無意味だ、この男には。本能でしか生きていないのだから。
「ちょっと、」
 腕をつかんだままいつもの歩幅で歩く影山に後ろから声をかけた。僕は半分小走りになってるんだから、気付けって。
「おとなしく俺のになっとけよ」
 そういった影山の眼は怖いくらいにまっすぐだった。

コイツ、俺のだから