「なに、そんなこともわかんないの?」
さっきやったばっかりデショ、という月島は机の向こうから少しだけ身を乗り出した。いつも愛用してるヘッドフォンは鞄へと仕舞われているみたいで、首元がすこしさびしい。短い淡い色の髪の毛がぴょんぴょんと跳ねてるのがかわいい、だなんて、いつの間に私はこんなにコイツのこと。
部活にあんまり真面目じゃないけどそれでもバレーが好きだってプレーがいってるのは、嫌いじゃない。だなんてもう、言い訳でしかないのかもしれない。ほとんど押される様に付き合うことになったときには、なんでコイツはこんなに私のこと気にするんだろう、だなんて思っていた。好きだと思う気持が自分でコントロールなんかできないこと、初めて知ったんだ。
おもわずその剣幕に押されておう、だなんて言って付き合うことになったときには、もう少し言い方がなかった のかと自分に呆れたのだけど、そうやって呆れることがそもそも気にしていたんじゃないか、って気付いたのはつい最近のこと。
「ちょっと、また聞いてなかったでしょ」
 ぼうっと、月島が私のことをまっすぐみることがまだ慣れなくて、たとえ勉強でもこうやって一緒に勉強見てくれることがうれしい。呆れるみたいに溜め息をついてるのに、その瞳の奥は柔らかいから、だからかもしれない。いまじゃもう、月島より私の方が好きが大きい気がする。気がする、っていうよりも本当だと思うけど。
 説明を書きながら説明をしてるのを、かっこいいだなんて思うのは内緒だ。聞いてないのかって、聞いてない。だって、月島が私のこと見てくれないから、(書いてるんだから当たり前だけど!)私だけでも見ていたい、だなんてまるで前に及川さんがいってたみたいな恋する乙女だ。恋とか乙女とかが似合わないわたしでも、みたい、じゃなくて恋する乙女、なんだけど。
 聞いてないのがわかったのか、溜め息をひとつついて、私の頭に手をのせてさらさらとなでるから気持ちよくってつい目を閉じる。大きな手は、やっぱり安心するような、こそばゆいような。ふわふわした気持ちが舞い上がる。そしたらちゅって音と柔らかい感触がおでこをおそって、ビックリして目を開いたら、目の前に月島の顔があって。
「まったく、終わってからだったのに」
 終わったらキスしてくれる予定だったのかなんて思ったら少しでも早く終わらせたくなっただなんて、我ながら単純だってわかってる。ご褒美くれんなら、がんばる、だなんて宣言したらすごく微妙な顔をしてあっそ、だなんてぐしゃっと撫でてくれるから。なんでそんなにすごく微妙な顔するのかさっぱりわからないけど。
 頑張って頑張って、もしこれで赤点回避どころか過去最高得点とかだせたら。もっともっとご褒美くれるかな、とかにやにやしちゃう。
 とりあえず、さっき間違ってるっていわれたとこ、直そう。

勉強会

(頭撫でるのも、キスも、『ご褒美』になるとか、)(くそっ)