そっと耳元でささやかれる自分の名前に、ゾクリと背中に電気が走ったように感じた。
こいつの声はお世辞抜きにキレイで、いつまでだって聞いていたくなる。
なのに、こうやって自分の名前を、しかも耳元でささやかれるとどうしたらいいのかわからなくなるのだ。
自分の名前を呼ばれるは、好き。
ささやかれるのも、嫌いじゃないというのはいささか謙遜が過ぎる(つまりは好き)。
でも、名前をささやかれるのだけは、どうしてもなれない。
心臓がぎゅっとつかまれたように苦しくなるし、変な汗がでるしでおかしくなるからだ。
ぼくがうろたえると、あいつはもっと近づいてくるし、少し眉間にしわを寄せてぼくをじっと見つめる。
この目が、熱を帯びでいるように熱くて、そのうち焦げそうだ。
そんなことを考えながらぼうっとしていると、いつのまにか、すっぽりと抱きしめられる。
耳元にわざわざ唇を寄せて、
「……しゅう、」
囁かれればゾクゾクと背中を何かが駆けていって、苦しくて、甘くて、苦くて。
ぼくはそっと背伸びをして、あいつの耳元に唇を寄せて、めったに呼ばない名前をささやいた。

囁かれた名前

(耳まで真っ赤にして)(腕の力が強くなった)