今日は、朝学校に行くときにあいつを見かけた。
あいつの前髪が目立っていて、遠くからでもすぐにわかる。
そのあと学校の授業中にぼうっと窓の外を見ていたら、あいつが学校の隣にある資料館に入っていくのが見えた。
今日はここら辺で仕事なのか、と思えばなんとはなしに笑いがこみ上げてくる。
こぼれる笑みを頬杖を中に隠し、視線だけを資料館へとむけた。
昼休みに、弁当を広げて学友たちと談笑していれば、その中の一人が
「今日おれさー、へんな髪型のやつみたんだけど」
と切り出す。
予感めいたものが走ったが、別の一人が
「あ、おれもみた!前髪だけ黄色い奴だろ〜どこの高校の奴だろう」
といったことで、あいつだと確信した。
やっぱり、高校生だと思われてるぞ、と心の中で文句を垂れるが、顔にはきょとんとした顔をはりつけ、その話に乗る。
やはりあいつはどこへ行っても目立つのだ。
学校が終わって御霊部へと足を運べば、そこには今日だけで先週一週間以上に目撃し、話を聞いたあいつがいた。
どうやら、資料を借りに来たらしい。
あ鈴男、と不名誉なあだ名を口にしたあいつに、名前を叫ぶいつものやり取りを行えば、雅之がにやにやと笑いをよこす。
ごめんごめん、というおざなりなセリフを吐いたあいつは、部長にありがとうございます、と告げ、じゃあね、と去って行った。
今日の仕事を終え、家路へと着く。
ぼくの瞳は何かを探すようにさまよっていることに、はたと気づいて愕然とした。
ぼくは、何を探していた?
……今日何度も目にした、あいつだ。
これ以上どんな偶然を期待していた?
……ただ、会えたらいいなと想っただけだ。
自問自答して、そんな自分が急激に恥ずかしくなる。
今日はもうこのままうちに帰って、さっさと寝てしまおう。
そう結論をだし足早に家へと向かえば、ふと感じる違和感。
ポケットに手を入れて、携帯を忘れてきたことを知る。
急な仕事がかからないとは言い切れないので小さく舌打ちをし、踵を返した。

これ以上どんな偶然を期待していた?

(あの壊れかけたドアから出て、階段下にあいつの姿を見つけるまで)(あと。10分)