ブーッというバイブ音に、視線を机の上の携帯にあげた。表示された名前に、また面倒事じゃないといいけど、と少しだけ嫌な予感がよぎる。そっと画面をタップして、願いもむなしくかわいそうな生贄となった彼に、小さく目をつぶってごめん、と呟いた。
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08/XX 18:06
From 木兎さん
Subject ツッキーのメアド☆
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烏野のツッキーのメアドゲット!
したから赤葦にもアゲルー(*´∀`)ノ
構ってやろーゼ\(^o^)/
ツッキー
mail:xxxxxxxxxx@xxxx.ne.jp
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どうしてこうも構いたがるのだろうか。黒尾さんほどではないにしろ。
烏野の彼のようなタイプは、構われるのは嫌がるだろうし、きっとこのメアドだって強奪に近いような方法で得たのだろう。つかず離れず、それくらいの距離が一番居心地のよい位置なのではないだろうか。
最初の印象よりは、年相応に顔に出して反応をする子だな、と思った。木兎さんや黒尾さんに構われるのは本当に不憫だとしか言いようがないけれど。面倒臭いし際限がない。
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08/XX 19:32
To xxxxxxxxxx@xxxx.ne.jp
Subject 梟谷の赤葦です
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こんにちは。梟谷五番の赤葦です。
突然のメールごめん。
木兎さんが勝手にメールを寄越し
たので、たぶん被害にあってるん
だろうと思って思わずメールした。
面倒だと思うから、七回に一回く
らい、すごく短い返信でもしてや
って。それも面倒だったらメアド
変えた方が無難かも。ごめん。
たぶん木兎さんは止められない。
烏野と公式戦でやれること、楽し
みにしてる。それじゃあ。
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メールを作成して送信、小さくため息を吐いた。最後の楽しみなのは本音。そこだけは自分の要件で、それを伝えられたのはよかったのかもしれない。あの調子で烏野が進化していったら、再戦がもっと楽しみになるだろう。
視線をまた下に落として、座った隣に携帯を置いた。律儀そうだったから、一回くらいは返事を寄越すかもしれない、だなんてそんな期待がないとは言い切れない。
合宿中のひどく短い間ったけれど、目に見えた上達があった烏野は面白いと思う。特に、一緒に練習をした月島と日向は。日向にはトスを上げたけれど、月島に上げる機会はなかったな、と今更ながらに思い出した。
"次"の機会にはあげてみたい、と漠然と思ったが、どちらかといえばブロッカーなのだから自主練習ではそうそうないことだな、とすぐに思い至る。残念だ、という感情が浮かんだことに、ひとり小さく笑った。
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08/XX 19:58
From 月島(烏野)
Subject Re: 梟谷の赤葦です
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こんばんは、烏野の月島です。
この間はお世話になりました。
わざわざありがとうございます、
すでに木兎さんと黒尾さんからは
今日だけで三通ずつメールが来て
います。助言の通り、たまに返す
ことにして、次に会った時に面倒
にならないように心がけます。
ブロックの練習もためになりまし
たが、今度は赤葦さんのトスもぜ
ひ打たせてください。
木兎さんとの練習でお忙しいとは
思いますが。
ありがとうございました。
それでは、また。
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ブーッという着信のバイブ音に、画面をタップして開けばあの人たちはまったく何をしているのだろうと呆れて苦笑がでた。というか黒尾さんもか。まあ黒尾さんもああいう人に構うのが好きなようだから想像はついていたことだけれど。かわいそうに。
それにしたって、最後の文だ。俺のトスを打ってみたい? なんだろう、こう、むず痒くなる感じ。さっきまでトスを上げてみたいと思っていたのに。不思議なものだと、首を傾げた。
彼はどんなプレイをするのだろうか、同じチームでトスをあげたらどんな感じだろうか。そんな楽しみが小さく、でも確かに湧き上がる胸中に、次に会える機会を待ち遠しく思い始めた。
生贄月島
小さな振動音が心地よい