「好み?」
ぼくは眉をひそめて聞き返す。
そうするとすこしだけ眉を八の字にして、うん教えてとこいつは言った。
好みだなんて考えたこともなかった僕は、理想の異性像ってことなら、と前置きをしてから挙げる。
「背が高い、目はきりっと細いほうがいいかな、あとは少しくらいがっしりしてるとなおよし。声がよくて、まああの爺さんが認めるとなるとあっちの"能力"もそれなりにあって――」
「……そっか」
適当に挙げていったらこいつはしょぼんとしょぼくれたように目の前のコーラの入ったグラスを、ストローでぐるぐると混ぜだした。
でも、べつに背が高くなくても、眼なんかぼくよりも大きくてくりっとかわいらしくても、体なんかがっしりとは程遠いなよなよしてても、それでもこいつがいいんだから、なんというか。
「案外好みなんて当てにならないな」
そう呟いても全く聞こえていないようで、まだぐるぐるとコーラをかき回している。
そんなことをしていればすぐにかが抜けてしまうのに。
なんだかおかしくなって、ぼくはくすりと笑った。

案外好みなんて当てにならないな

(それでもすき、のほうがいいと思うんだけど)(こいつはそうでもないのかな)