やわらかい風が髪の毛を踊らせて、ついでとばかりに秋の薫りを運んできた。オレたちの『夏』は終わってしまったけれど、それでもどうしたって留まることなく季節は移ろっていく。じんわりと滲む月は、やっぱり滲むように揺蕩う雲の隙間をぬって舞台へとさし込んでいた。
 同じように歳を重ねて、同じように進んでいるはずなのにどうしてか置いていかれるような気持ちになるのは、つかみ所のない彼のせいだろうか。……などと彼のせいにしてみたが、これはどう考えたって自分の心の持ちようだ。
 彼の『大好き』は、いつだっていろいろなものや人に向けられている。その『大好き』が不満になったのは、思えば出逢ってからわりとすぐのようだった気がする。その不満を溜め込んで溜め込んで、いつのまにか自分でももて余すようになってしまった。
 やわらかくオレに呼び掛ける「かず」というあだ名。彼の『初めて』の友達だから。だから彼は他の人へは使わないあだ名を使ってオレを呼ぶ。
 伝えたい色はあれど、その色がどうやって伝わるかがわからなくてこわくて、一歩が踏み出せないだなんていつまでだって変わらない。
 やさしい色。さみしい色。嬉しい色。哀しい色。だいすきの色。──恋しい、愛しい色。
 でもきっと、全部混ぜたらぐちゃぐちゃの濁った黒になるんだろう、と思うと。汚くて、とてもじゃないけれど伝えられないな、なんて思う。
「かず、ほら、お月さま!」
 オレの右手を引いて月を指さす彼に、思わず「月が綺麗ですね」と口から溢れた。慌ててにゃーんて、と誤魔化す前に、きょとんとした彼はそれでもそっと眼を細めて微笑んで──
「うん、オレもそう思う〜。ね、一緒だね、かず?」
 ぎゅっと掴まれた右手の温度が、少しだけ上がった。

伝えられない色

 ねえすみー、それってどういう意味?