「翔くんまって、翔くん……っ」
 ぱたぱたと俺の後ろをついて歩く月子は、人ごみに紛れてすぐに見失ってしまいそうだった。さっきから手を繋いでも、すぐに人ごみに紛れて手が離れてしまう。申し訳なさそうに縮こまった月子は、ますます人ごみに紛れて、どんどん小さくなっていく。
「わわっ、しょ、うく……っ」
 流れに押し戻されていくように進行方向とは逆に足を運び、月子の手を強く引いた。
「これでもかぶってろ、」
 そういって月子の頭に俺の帽子を強くかぶせる。
「まだこれがあったほうが目立つだろ。迷ったら俺が見つけてやるから、その場から動くなよ!」
「……はいっ」
 帽子をわたわたとかぶり直した月子は、照れたように笑いながら俺の後をついてくる。今度は離さないようにと、強く月子の手を引いた。


人ごみ