警戒区域は人気がない。いたとしても警戒中のボーダー隊員か侵入した一般人くらいなもので、襲撃さえなければ静かなものだ。この間の襲撃で壊された家はそののままで、狙撃手たちは射線が通るというだろう。道路の瓦礫はあらかた撤去されてはいるが、家の中が見えている個所も多い。
 弾道を引きながらひっそりと考えたのは、警戒区域以外にも人がいないかもしれない、などという世迷い言だ。ここにいるのはおれと近界民だけで、オペレートしてくれている柚宇さんやたまに指示を飛ばす太刀川さんですらどこか別の場所にいるのではないかなんて思ってしまう。そんなことはないのに。
 ──そう、そんなことはない、はずだ。
 コイツを倒して緊急脱出をすれば、いつもの作戦室に戻って、柚宇さんが笑って「おつかれ〜」なんて言ってくれるはずで、そうしてモニタ越しに太刀川さんを見て「やべーな」なんて言っておれも笑えるはずで。
 レーダーに映っているのだ、絶対にそこにいるのはわかっている。それなのに、警戒区域は門が開いた先のようにうつろに見えて、そうして。
 変化弾が近界民を貫いてゆく。「おつかれ〜」と結宇さんからの通信が入って、今日はもうこれで終わり。トリガーオフして私服に戻ったら、自分が立っている場所がわからなくなった。本部に帰らなければ、と思うのに足がうまくすすまない。この世界は生きているはずなのに、どうしても門の先を想像してしまう。
 警戒区域の静けさが、じとりと背後から迫った。



町並みはうつろ