バザールへの調査、というよりも民の声を集める作業を、ジャーファルさまは厭わない。いつのころからか、そのお供が私一人に任されるようになった。
 それまでは、何人かが順繰りとついて行ったものだが、なぜか私の仕事になっている。別段それが嫌だとかそういうわけではないし、むしろうれしいことではあるがなんとなくなぜだろう、という疑問はある。
 ジャーファルさまに能力を認められて仕事をしている自信はあるが、信頼されているかというとまた別の問題だ。私の経歴はあやふやであり、本来ならば王宮に務めることなどできないのだろう。
 それを可能にしたのは以前バルバット王宮で仕えていた経歴がなせる業で、元をたどればじいさまのおかげなのである。親のいなかった私に、無償の愛情を注いでくれたじいさまに報いるように仕事をしなければならないと思う。
 脱線したが、信頼はされていないのだろう、と思っていたのだ。しかし、どうやらこうやってバザールで民の声を集める作業を行うのは、それなりに頼られる仕事らしいということが分かってきた。
 この頭の良さが発揮するのは、どうしたらそれを解決することができるのかを瞬時に奏上できることである。シンドリア国民は八人将とシンドバッド王ならどんなこともいいようにしてくれるに違いないと思っているらしく、あんなことがあって困っている、こんなことがあって大変だ、と事細かに教えてくれるのだ。
 これまでは、それをすべて王宮に持ち帰り、どうしたら解決できるか、どうしたら予算をねん出できるか、どうしたら土地を出せるか、そういったところから始めなければならなかった。しかし私の頭は、それらの書類がすべて頭に入っているうえに、最も効率の良い方法を自動的に算出してしまう。どういった形にすることができそうか、その場で告げることができるのだ。
 これがジャーファルさまだけではなく、国民にもあんたがいれば、というような信頼のされ方をし始め、より頑張ろうと思える。今日もいくつか見直せねばならない予算と、土地計画が持ち上がっていた。ゆっくりと王宮に向かって歩き出す。

後ろに伸びるのはふたりぶんの影

(ふりかえって並んでいる影を見て)(隣にたてることが誇らしい)