初めて抱き締めてもらったのは一体いつのことだっただろうか。ふんわりと、でもしっかりと回された腕に、私の思考は珍しく停止したのだった。
 そんなことを思い出してくすくすと笑えば、後ろから回された腕がぎゅとしまり、引き寄せられる。
「なにを笑ってるんですか」
 笑いを含んだ声で私の髪に顔を埋めながらそっと言われると吐息が耳にかかり、くすぐったい。
「一番最初に、抱きしめられたときのこと、思い出していました」
 背中に体重をかけるようにそっと身を預けると、回された腕がぎゅっとしまった。頬をくっつけるようにしてすり、とすり寄ると嬉しそうに笑う。
「そんな昔のことを、」
 懐かしいですねと言ってくれる目は、懐かしいことを思い出して少し遠い。
「あのときのウェルテは、びっくりするくらい時間が止まりましたね」
 くすくすと笑いながらいうので、私は仕返しのように言うのだ。
「ジャーファルさまが、いきなり抱きしめるからです」
 思い出してふたりで笑って、そうでしたね、とこめかみに一つキスを落とすジャーファルさまに暖かな気持ちになる。なんでもないそんな時間が愛しくていとしくてうれしくなって、こんな時間がいつまでも続けばいいのに、と思った。

抱き寄せる腕が優しくて

(幸せごと抱きしめられているような)(そんな気持ち)