風邪を引いたウェルテに、しっかりと休むように言ってから部屋をでる。前回風邪を引いたウェルテは、無理やり出てきて執務中に倒れて騒然となった。
 仕事ができなくて困るのは非常によくわかるが、風邪が悪化して仕事ができない期間が長くなる方が困ると説き伏せ、部屋におしこめてきたのだ。それでも仕事中にそわそわと気になってしまうのは、集中できていないのだろうかと疑問になってしまう。
 自分の机の上に広がる書類に見切りをつけて、今日は早めに切り上げて様子を見に行こうと決めた。

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 仕事が終わってから部屋を訪れれば、苦しそうに寝ているウェルテの姿が目に入る。そっと額に手を伸ばせば朝よりも熱くなっていることがわかり、きつく絞った布を額に乗せた。
 冷たい感覚に目が覚めたのか、ゆるゆると瞼を上げたウェルテに、起こしましたか、と声をかければゆっくりと腕があがる。私の座っている膝の上まで到達したところでぱたりと落ちて、そのまま瞼も下がった。
 どうしたのかはわからないが、風邪を引くと人が恋しくなると聞く。ウェルテでもそうなのだろうか、と微笑ましく思い膝の上に落ちた手をやわく握ってやる。
「じい、さま、」
 こぼれるように落ちた寝言と、目尻から流れた輝きに思わずまじまじと顔をのぞいてしまう。いつもとは違う一面に、どうしたらいいのかわからずにそのままぼうっと見ていると、枕元に書物を見つけた。
 熱が上がった原因はこれか、と苦笑し、手を布団の中に戻し、書物を机の上に置く。お大事に、そう小さな声で落として部屋をでた。

流れた、

(言葉と輝きに、)(私はまだ、踏み込めずにいる)