黒い月が白い湖面を照らしている。黒い月を見上げて、ああここは夢か、と思った。
 小さい頃からずっと見続けているこの夢は、思い出した頃に私に語りかけてくる。この中の私は、いつだって小さい頃のそのままの姿で湖面へと飛び込む。飛び込んだ先で水に濡れることもなく(夢の中なのだから当たり前と言えば当たり前なのかもしれない)、大きな砂時計の前にたどり着くのだ。
 大きな砂時計は小さい私のゆうに四倍以上はあって今の私よりも確実に大きい。キラキラと光る砂粒は、大きいものから小さいものまでさまざまに、薄紫色を纏って銀に光っていた。
 少しずつ、本当に少しずつ下へと落ちていっていた砂粒は、昔よりも確実に下に貯まっている。私は漠然と、"これ"が自分の"壊れる"までのリミットを示していることを感じ取っていた。
 まだまだ上にたくさん貯まっているのだろう、と信じているが、何しろ砂時計自体が非常に大きく、残量がわからない。
 定期的にくるここは、定期的に砂が増えているわけではない。頑張って徹夜したあとや、大きな案件をどうにかしたあとなどは増えている量が明らかに多いのだ。やぱり、自分の能力を使ったと思えると落ちている砂が多くなる傾向にある――つまり、上にある砂が私の命の残量。
 ぐっと頭を上に向けて、目をすぼめてねめつけた。残量がどれだけあるのかはわからないけれど、まだまだ大丈夫、なはず。
 そう信じて、強く目を瞑った。

 瞼の裏に強い光を感じて目を開けば、ベッドの上で。もぞり、と横を向けばほんのり冷たくなった枕が頬をかすめて、ため息を吐いた。

黒と白の世界の砂時計

(ため息が、)(薄紫色を纏った銀のように、光って見えた)