好きだといえる距離が、すぐにでも言える距離がもどかしい。いってしまえる、というこの距離。
 でも、それでも、言ってしまったら、この距離すらなくなってしまうのではないかと思うと踏み出せない。そうやってためらっているうちに、もう二度と言えはしないところまできてしまった。
 王宮に帰ってきたのは、"何か"を含んで紅くなった石と、翠のクーフィーヤだけで。
 指先から零れ落ちていったと思ったものは、世界から零れ落ちていった。

紅と、翠の、

(紅い石は、)(私の額で揺れている)