※"何かが変わろうとしていた"のお姫さま視点。

 好きなものはどこにだってある。それが例えば絶対に手に入らないものだとしても。
 彼女がこちらに来たのは、彼が諦められなくてまたわがままを重ねた直後だった。彼が仕事ができる人だとか、元暗殺者でお強いだとか、そんなのはあとからついてきたおまけのようなもので。
 彼に惹かれたのはまれに見せる優しい瞳。
 その優しい瞳は、彼の部下の方々と話をされているときだったり、一人でため息をついたあとに苦笑するときだったり、何を思い出すのかわからなかった。優しさに惹かれたわけではないけれど、優しい光で見つめられたいとは思う。
 そして、彼女が来て――わかったのだ。
 彼と彼女の間には、部下と上司の関係を越えた何かがあること、お互いにそっと優しい瞳で見つめていること、呼ばれたときの嬉しそうな声、そしてなにより――呼び合う声に含まれた優しい響き。すべてが敵わないと、叶わないと気付いても気持ちを止めることなんてできなかった。
 でもその気持ちは、彼女へ恋してる彼に抱いた気持ちで、彼そのものなのかはわからなくなってしまって。ああ、ダメだな、あの優しい空間が私を苦しめる。

優しい瞳のその先

(優しい光は)(恋する瞳に宿ると知った、)