あの手を優しく握りたいと最初に思ったのはいつだっただろうか。思い出せないほど過去の記憶でもないはずであるが、ここのところずっとそう思っていたせいか初めて会ったときからだと錯覚しそうになる。
 明確な境目はないのかもしれない。気づいたらもうすでに触れたいと思っていたのだ、あのインクで汚れてしまったり紙で切ってしまった傷があるような働き者の手に。
 寝てしまってだらりと垂れた腕に愛しさすら覚える。他の文官が仮眠以外に寝てしまっていたらいらっとさえするのに。
 垂れた腕をそっと持ち上げて、少しだけ握ってから机の上へと戻した。

 なんだったのだろうか、今のは。少しだけ手を握られたような、柔らかに撫でられたような、こんな心臓がドクドクと大きな音を立てて血液を循環させることなんていままでなかった、はずだ。
 少しだけ、と頭の中の誰かに言い訳をして頭を扉側とは逆に向ける。眠気は吹っ飛んだが、こんな状態ではなにか下らないミスをおかしそうで怖かった。

伸ばした手も、その指先も、

(眠っているときにか、)(たどり着けないなんて)
(いつもよりもずっと、)(優しくて)