今日はいい天気だ。だからかもしれない、ラボから外を眺めたのは。今は昼休み。中庭はご飯を食べる生徒でにぎわっていた。
 その中で、一人、目を引いたのは後輩で、生徒会書記のちぃだった。彼女はくるくると表情を変え、ひどくたくさんいる中庭の中でもひときわ輝いて見えた。
 俺のひとつ下の学年、つまりちぃの学年は女子がそれなりに入った。だから校内で女子とすれ違うことも多くなったし、月子も喜んでいた。ちぃは女子で固まって何か行動しているわけではなく、でも仲が悪いわけではないらしい。
 今日のお昼は梓たち、つまり部活の仲間とご飯を食べているようだった。傍から見てもそれは楽しそうで、大人数でわいわいとご飯を食べているのが少しうらやましかった。
 ふと、ちぃを見ていれば、芝生眼鏡先輩にお弁当を取り上げられて、取り返そうと必死に手を伸ばしていた。芝生眼鏡先輩は楽しそうで、ちぃだって怒ったような顔をしながら、それでも楽しそうにしていた。もやっとしたものが心に広がる。
 最近はこうやってみているともやっとすることが多い、気がする。楽しいことが終わってしまうことが怖くて、それでも次の新しい楽しいことを探していいのだと教えてもらったのだけど、それでも今の楽しいことを終わらせるのが怖かった。少し前までは、ちぃと一緒にいることが楽しくて仕方なかった。
 それは発明の話がたくさんできる、とか、くるくるかわる表情が面白い、だとかそういったこととは別に、ちぃがいるとなんとなく楽しくなって、ちぃがいないとなんとなく物足りないようになった。それなのに、いつの間にか一緒にいても、もやっとすることや、どろどろとした感情があふれることがたびたび起こるようになった。
 逆に、ひどくうれしくなったり、ほんわりと気持ちがあったかくなったりすることもある。よくわからない感情が自分を支配して、自分が自分でないような感覚に陥ることが怖くもあり、面白くもある。
 そうやって思いをはせていれば、いつの間にか取り返したたお弁当を得意げに食べ、また、芝生眼鏡先輩が突き出した箸にぱくつくちぃを見て、またどろどろとした感情があふれ出す。ちぃが『誰か』に懐いていたり、笑顔を見せているとぐるぐるする。
 俺といるときにあんなに楽しそうにしている? あんなになついてくれている?
 自分が一番であると思いたくて、いらない、と言われたくなくて、それが怖い。ちぃと一緒にいるとドキドキして、でもそれが嫌じゃないんだ。ちぃは俺と一緒にいるときに何を思ってる? それが怖くて何も聞けない。

 いつの間にかもう、昼休みはあと少しとなって中庭の大勢が引き上げる中、部活で集まっていたちぃたちはみんなで仲良く歩いているところだった。
 目をやると芝生眼鏡先輩のとなりにちぃがいてまたもやっとする。いいなぁ、ずるいなぁ、そう思っても自分と位置が変わるわけでもなくて、また自分の思考の突飛っぷりに嫌気がさす。
 でも、誘うことはできる、と思う。

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 明日のお昼は予定ある? と聞かれて、特にないです、といえば、先輩がどこかそわそわしながら言った。
「一緒にお昼食べよう?」
「! 本当ですか?」
 私はうれしくなって思わず聞き返す。これたか兄に見られたら絶対からかわれる、ってくらいきっとぱっと顔が明るくなったと思う。
 うぬ! と嬉しそうにうなづく先輩に、ほわんとうれしくなって、生徒会室で食べますか? と聞くと、
「外がいいな、」
 そういって目を細めて笑った。その顔が、いつもと違って、すごくドキドキして、なんだか目を合わせられなくてちょっと視線をずらしてしまう。
 それでもうれしくて、はい、と笑いながら言えば、先輩はうぬ!と言って頭を撫でてくれた。

はやく明日になぁれ

(どうしようなんかそわそわしてきた)
(昨日見たみたいな、幸せそうな光景に見えるのだろうか)(どう見えていても俺は幸せだけど)