「たか兄……!!! どうしよう!」
「おーなんだー?」
 顔面蒼白、その言葉がまさにぴったり! と言わんばかりの幼馴染が駆けてきた。幼馴染といっても二つも年が離れていて、ほとんど妹のような存在だ。
 こいつは最近、一つ下の生徒会の会計と付き合いだした。からかうと非常に面白いのでよくネタにさせてもらっているが、たまーに天羽が怖いんだよなー。
「デートって何着てけばいいの!?」
「は?」
 泣きそうな顔をしながらそんなことを口走る智里は、もうこの世の終わりとばかりに顔をゆがめる。俺はぽかん、とした後、思わずぷっと噴出する。
 なんで笑うの、とボディーブローをかまされそうになるが、ひょいとよける。いやぁ、なんというか……面白いよなー。
 まあいっちょおにーさんがデート服なるものを教えてあげようじゃないか。
「まあ、男ってのはな、」
 そういってから白鳥や小熊、それに俺が好きな感じのかわいらしいいわゆる『女の子らしい服』について話す。真剣に聞いている智里にまた笑いそうになるが、そこはぐっとこらえてまじめーな顔で通してやった。

****

 待ち合わせの時間の、十五分ほど前に着く。そらそらが女の子を待たせてはいけません、って言ってたから、少しだけ早く着くようにした。
 それなのに、ちぃはそこにもういて、そわそわしていた。一体いつからいるのだろうか。
 そして……そして、なんだかいつもと雰囲気が違った。なんというか……いつもと違うのだ。いや、変だとか似合わないだとかそういうことではなくて、いつもと全っ然、違う。
 生徒会で休日に会うこともよくあったし、私服は見慣れていると、そう思っていた。でも、いつもの私服とは違って、もっとこう……ふわふわで甘いお菓子のような、そんな感じ。
 ちぃも落ち着かないようににスカートの裾を引っ張ったり、きょろきょろしていた。
「お待たせ」
「先輩……! おはようございます!」
 俺が声をかければ、ぱっと顔をあげて、緊張したようにちぃはいった。おはようなのだ、と声をかければもう一度、おはようございます、と頭を下げてくれた。
 うぬぬ、なんかこう、そわそわする……!!
 いこうか、とそう声をかけて手を差し出せば、おずおずと手をのせてくれて、その小さな手をぎゅっと握る。
そうして歩き出せば、なんだかデートなんだ、と実感がじわじわときて、うれしくなる。でもちぃはそわそわと落ち着かない様子で、楽しく……ないのかな。
 まだ緊張しているのだろう、と思うことにして、少し早いけど、まずはお昼ご飯を食べに行くことにした。どこがいいかと聞けば、どこでも大丈夫です、と返ってきて、またしょんぼりする。
 するとあわてたように、宇宙食が多いんですから先輩の好きなもので、と言われて少しほっとする。なんだかいろんなことが気になってしまう。まだデートは始まったばかりなのに。
「ここでいい?」
「はい!」
 そういって示したのは某有名なファストフード店。まあ学生だし、あと食べたことなかったからちょっと食べてみたい、そういえば少しびっくりしたように、食べたことないんですか、と言われた。
 まあ友達はいないし、ここに来てからの友達だって、学園の周りに何もないせいで遊びになんか行かないし、じいちゃんやばあちゃんとファストフードなんか食べない。そんなことを思いながら、ほらいこう、と手を引いて入る。
 ちぃにいろいろと教えてもらいながら買って、飲食スペースへと足を運んだ。まだお昼には少し早い時間だからか、人はまばらにしかいなくて、窓際のソファの席に腰をおろす。
 座れてよかったのだ、といいながらいただきます! と合掌して早速ぱくつく。味が濃いけど、結構おいしい……と思う。
 ぱくついていれば、ちぃはちみちみとごはんを食べて、ぼうっとしているみたい。なんだかだんだん不安になってきて……楽しくないのだろうか。緊張しているだけだと思っていたけど、それだけじゃない気がして。
 どんどんと不安になって、どうしようと怖いとそんな言葉がぐるぐる頭をまわる。でも、言葉にしないと気持ちは伝わらない。
 ぬいぬいはそういってた、から怖いけど、大切にしたいものは拾ったままにしておきたい。
「……まだ、お昼だけだけど……俺といるの、楽しくない?」
「え……っ」
 思い切ってそういえば、きょとん、とした顔のちぃがいて、俺もきょとんとしてしまう。
 ぬぬぬ、どうしたのだ……?
 そう思って、ちぃの言葉を待っていれば、ええっと、とおずおずと声を出す。楽しくないわけじゃなくて、といったん言葉をきったちぃは、気になって、と続けた。
「……あの……その……」
 なんだかドキドキして、ちぃの言葉の先を待つ。うーとかあーとか、なんか変な声がたくさん聞こえるけど……俺は、言葉の先を聞くのが、少し怖い。拒絶の言葉が出てくるとは思っていないけど、それでも否定的な言葉だって可能性を捨てきれなくて。
「あの!」
 という大きな声に、う、うぬ、と返して(眉間にしわが寄って武士みたいだ)、続きを待つ。が、うつむいて続いたのは非常に小さな声で、聞き取れなかった。
 ぬ、聞こえない、と返せば、もう一度、今度は顔をあげて、小さく言った。
「これ、似合わないですか……?」
「ぬ?」
 これ、とは一体……と思えば、服を引っ張っているのできっと服のことだろう。似合ってないわけがない、すっごく、すっごくかわいい。
 そういえば、ほっとしたようにふにゃっと、今日初めて笑ってくれた。言ってなかったっけ? と言えば、言ってないです、とぶうたれたように少しだけ頬をふくらませるちぃがかわいくて、思わず頭を撫でる。
 ごめんな、そういえばいいですよ、と視線をそらしながら、でも少し笑ってくれるから、ほっとして、力が抜けた。そんなこと気にしてたなんて。
 そこから、いつものようにいろいろと話すことができて、笑ったり、からかってすねたり、撫でたり、いろんないつもの表情がたくさん見れて安心した。そうして、ふとした拍子に、服の話になって。
「たか兄が、男の子はこういうのが好きだって、それで……」
 いろいろ話してくれるのは、嬉しい。でも、それでも芝生頭先輩がたくさん出てきて。そして今日の服は芝生頭先輩が選んだ、とそう聞けばもやもやがぶわーっと心に広がって、ぐらぐらする。
 これは良くない兆候で、ほらどんどん俺の顔が歪んでいく。
「……先輩?」
 いろいろと話していたちぃだけど、俺の顔がおかしいことに気がついたのか、どうしたのかと聞いてくる。言ったほうがいいのか、言わないほうがいいのか。さっきみたいに言わないでお互いもんもんとするよりもいってすっきりすればいいのかもしれない。
 そう思えば、
「ちぃが、芝生頭先輩の選んだ服を着てるのが嫌だ」
 とぽろりとこぼれて。
 え、口のまま、ぴたりと停止したちぃが面白いなんてことを頭の隅で考えた。どうしてかわからないけど、なんだかすごくいやだった。
「俺に会うために、ちぃが選んでくれたら何だって嬉しいのに」
 そう言って、少し顔をあげればちぃは戸惑った顔で、真っ赤になっていた。
 ぬ? どうしたんだろう。
 そうして小さな声で、ちぃはごめんなさい、次からは自分で選びます、と言ってくれた。それでもぬーっとうなっていれば、ちぃは、
「先輩に、少しでもかわいいって思われたくて、選んでもらったんです……」
 と赤い顔のまま申し訳なさそうにそう言った。それだけで、なんだか嬉しくなって、そっか、と笑顔で言えば、ちぃはほっとしてくれたようだった。
 俺にかわいいと思われたい、とその言葉が嬉しくて、くすぐったくて。いつだってかわいいって思ってるけど、そういうことではないらしい。

初デート!?

(何着てたってかわいいのに)(そういうとちぃは顔を真っ赤にして)(それもかわいい)