「……ちぃ、」
 そう呼んだ先には、すこしびっくりしたような顔がある。抱いているこの気持ちが愛しいのだということにやっと気がついて、どうしようもなく苦しくなった。
 そうして、伝えずにはいられなくたのだ。これを伝えても、どうなるかはわからない。エゴだとは思う。
 それでも、自分の想いを伝えたくて。困らせたらごめん。
「ちぃ、すきだよ、だいすき」

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 そういって切なげに笑う翼先輩は、すごく…きれいだと思った。恐る恐るといった風に頭に伸ばす手は、辿りついて力を抜き、するりと私の髪をなぜた。
 それと同時に、あたたかい何かが、頬を伝って……伝って?
「……ごめん、泣かないで、」
「え、」
 自分の頬に手を伸ばせば、濡れたことが分かって、ただただ呆然とする。なぜ私は泣いているのだろうか。翼先輩が、すき。だいすき。
 そう思っていて、翼先輩に、すきだと、だいすきだといわれて、心がぎゅっとなった。ふわふわあたたかいきもちよりも、ぎゅっとしめつけられるような苦しさが私を支配する。
 緊張した空気で、悲しいのか、嫌だったのか、そう聞く翼先輩に、ふるふると首を横に振れば、ふと弛緩する。
「つばさせんぱい、」
 そう呼んだ声は涙のせいか、少し震えていて。それともこの先を言うことをためらっていたのかもしれない。だってこれは、ずっと私の心の中だけに置いておくつもりで、そう思っていて。
 それでも翼先輩に伝えたくなった。このぎゅっと締め付けられるようなくるしさ、それでもなお感じる幸福感。
「わたし、わたしも、」
 ああ涙が止まらない。さっきよりももっと声が震える。
 涙が、ああのどがきゅっと締まって声が出しづらい。

「すきです、だいすき」

(そういった私は笑った。)
(翼先輩も、へにゃりと笑った。)
(なんだこれ、)(とてもしあわせ。)