彼女が『彼』を好きなのはしってる。いつだって『彼』の話をする彼女はきらきらと輝いていて。『彼』と話しているときに彼女の笑顔は俺と話してるときのきらきらの笑顔じゃなくてへにゃっとしたふわっとした、もっとやわらかい笑顔で、全身から『彼』のことがすきだっていってる。
 そんな彼女をみるとこころがくるしくなって、でも彼女の幸せな笑顔を見てるのが幸せで。矛盾した思いがぐるぐるする。

夢 の中だけでも、と思っても彼女はいつだって『彼』のことを思っていて。(夢の中でくらい俺に都合のいい展開になったっていいのに)夢の中の彼女はたまに、『彼』のことを思って泣いている。
 俺が慰めようと思っても、どうしようもなくて。そこに唐突に表れては彼女を笑顔にしていく『彼』に、俺は嫉妬と、自分の情けなさで涙が出てくるようにして目が覚める。
 どうして夢にまで『彼』がでてくるんだ。俺の夢の中なのだから慰めるくらいさせてくれてもいいのに。

 彼女と話しているときに、時間が止まればいいのにと思う。そう思ったところで時間は無情にも過ぎて行って、彼女は『彼』のもとへと走っていく。
 『彼』は彼女のことしか見えてなくて、俺のことなんか全く気にしない。そしてそのまま彼女を抱きしめて(やめろ)額にキスを落とす(俺の前でするな)。彼女は(もうみるなよ)恥ずかしそうに笑って(つらいだけだ)手をつないで歩いていく。
 ぐるぐるする痛みが俺を襲って。どうしようもなく途方に暮れたように立っている俺に、クラスメイトが声をかける。
「ああ、今行く」
 そうやっと声を絞り出して進めば、どうしてかもう悔しさがあふれてくる。

 君が彼を好きなのは知ってるよ。でも、それでも俺はきみが好きで。

ごめんね、すきだよ。

(そう伝えることができたらと思っても)(俺にはそんな度胸さえないんだ)








 俺の大好きな彼女は、友達が多い。学年が違うのもあるけれど、それだって友達が多い。
 もともと男の多いところなのもあって、彼女の友人は大半が男で、それが俺を不安にさせることもある。彼女が俺を好きでいてくれることに不安なんてないけど、俺が彼女を好きでいることに不安なんかないけど、そうじゃなくって彼女に思いを寄せる人が彼女に何かしないかとか、そういう不安。
 月子だってさんざんな目にあってるし、月子みたいにいつでもそばにいてくれる人もいない。心配は募るばかりで。
 彼女を迎えに行ったその日、彼女はクラスメイトの男の子としゃべっていた。彼の眼は俺の眼といっしょで(つまり彼女が好きってことだ)。
 すぐに彼女を呼べば、走ってこちらに来てくれてそれを受け止めるようにぎゅっと抱きしめて、額にキスを一つ落とす。彼女は俺を見上げて恥ずかしげに笑って、そんな彼女の手を取って歩き出す。
 彼女は俺のだよ。君にはあげない。
 そんな思いを込めて威嚇していたなんて彼女はきっと知らないんだろう。

ごめんね、すきだよ。

(俺だけの君でいて)(無理なのはわかってるけど)