「とりっく!! おあ!!!! とりーーーーーーーーーと!!!!」
そんな声を発しながら飛び回るのは、くまったくん。彼の首からはお菓子ボックスと思しき箱がぶら下がっている。
廊下から見たところによると、お菓子を入れなかった生徒に向けてカラーボールを投げつけたり、爆発物となろう発明品を押し付けたりしていた。くまったくんの音声のサンプルが翼先輩だからか、あの声が聞こえると逃げる生徒でいっぱいになっている。
そんな音声のサンプルとなった翼先輩本人はというと、生徒会室でぐったりとしていた。
「あまいー匂いが甘いのだーぬぅ」
ぶつぶつとつぶやきながら、ソファの上でごろごろと転がっていた。颯斗会長はくまったくんのことをまだ知らないらしく、翼くんは甘いものがあまりすきではありませんでしたね、とゆるく笑っている。
紅茶でも入れましょうか、と私が立ち上がれば、お願いします、と颯斗先輩が笑ってくれた。翼先輩はいりませんか、と聞けば、俺は緑茶がいいーとのことで、はいわかりました、と微笑めば翼先輩はまたソファへと沈んでいく。
翼先輩はよっぽど苦手だろうに、なんであんなにお菓子を集めているのだろうかと少し不思議に思ったが、翼先輩のことだ、きっとイベントを楽しむことしか考えていないに違いない。
お茶を入れて戻り、自分の席につけば、そこで月子先輩がやってきた。今日は保健係の仕事、だったはず。
沢山のお菓子を抱えてやってきた先輩は、錫也のお菓子だよ! と私たちに配ってくれた。そんな月子先輩にもお茶を入れて、仕事合間の少しのティーブレイクを楽しむ。
ふと窓の外に目を向けると、くまったくんが中庭の真ん中でぷすぷすと煙を吐いているのが見えて、ぎょっとする。あの、あれ、と声にならない声でくまったくんを指さした瞬間、いつものごとくくまったくんが爆発し、お菓子が宙を舞った。
背後では、つーばーさーくーんー? と颯斗会長が翼先輩をいつものように怒っていて、月子先輩と顔を見合わせて笑ってしまった。爆発するのはびっくりするし、すこし怖いものがあるけれど、それでも爆発してしまったら怖いことはない。
お菓子がくるくると舞って、生徒へと降り注ぐハロウィンは、いつもとはすこしちがったものになった。
はっぴーはろうぃん!
(でも爆発は夜の仮装の時にしたらもっと盛り上がったんだろうけどなぁ)(っていうかこれ爆発まで計算に入れてたんだよ、ね……?)