昨日降った雪でホワイトクリスマスになったが、当日はというと快晴で、空には星がきらきらと瞬いている。自分がロマンチストだとは思わないが、当日に雪が降らないのは残念だと少しだけ思った。
 時間はまたクリスマスになったばかりで、今日くらいは夜更かしをしてもいいかな、そんな気分になる。窓から見える木々はホワイトシュガーをかけたように白く、月明り星明かりできらきらと輝いていた。
 きれいだなぁ、そんなことを思いながらぼーっと窓の外を眺めていると、その静寂を裂くように携帯電話が鳴った。先輩仕様に特別に変えた着信音とランプの色が先輩からの着信を知らせる。
 こんな真夜中に? 珍しいこともあるものだ、とそう思いながら着信をとる。
「もしも……」
「メリークリスマース!!」
 もしもし、と言葉が終わる前に元気のいい声が手元から響く。相変わらず先輩は唐突にくる。
「ごめん、寝てた?」
「いえ、起きてましたよ、大丈夫です」
 反応が薄かったからか、先輩はちょっとしょぼんとした声で聞いてくる。あわてて言えば、うぬ! と元気な声が返ってくる。
 今日は昼間にみんなでクリスマスパーティを開いて、その時にちゃんとメリークリスマスって言い合った。プレゼントも渡したし、どうしたのだろうか?
「寒いけど、ちょっと窓開けて?」
 窓? 窓を開けて、きょろきょろと周りをみるとぽつりと下に影が。全力で手を振っているそれは、先輩だった。
 月明り星明かりが雪に反射して、真夜中でも外は比較的明るく、先輩を含めて幻想的な空間が広がっていた。
「ぬーん……びっくりした?」
「びっくりしました……」
 うれしそうにぬははと笑う先輩はどこかそわそわとしたように言った。
「遅いけど……ちょっと降りてこられる?」
「え、あ、はい!ちょっと待っててください!!」
「ゆっくりでいいぬーん! ……いっぱいあったかくして、おいで」
 遠目にもひどくやさしくほほ笑んだのがわかって、あわてて下へ降りる準備をする。あんなやさしい顔、遠目でよかった、至近距離で見てたらたぶん爆発する。
 そう思いながら、この距離でも赤くなった顔をぱたぱたと仰ぎながらコートを手に取る。パジャマじゃなくてよかった、と思いながら、コートを着て、マフラーを手にとって急いで部屋を出た。
「おまたせしましたっ」
「ぬーん、待ってないぞ!」
 そういって笑顔で迎えてくれた先輩は、なぜか大きな白い袋を背って、まさにサンタクロースそのものだった。さむくないか、とそういった先輩は私が手に持っていたマフラーを手に取り、首に巻いてくれた。
 ありがとうございます、とそういえばうぬ!と満足げに笑う。先輩はかわいいなぁ、と思って、和んでいると、
「実は、プレゼントを渡しに来たのだ」
「? お昼のパーティでもらいましたよ?」
 そう、プレゼントはお昼のパーティで、カスタムパーツをもらった。これがまたすごくて、さっきまでいじっていた…というのはおいておいて、どうしたのだろう。
 そう思っていると、ちぃには特別、といってウィンクをしながら背負っていた白い袋(プレゼント袋?)を勢いよく開いた。その瞬間……
 ひゅ〜……ドンッ
「ぬっしっし、びっくりした?」
「……びっくり……しました……」
 そう、袋から出てきたのは、冬の星空に咲く花火だった。
 私が星月学園に入学する前の年のクリスマスに花火を打ち上げたという話を聞いてから私は、冬の花火というものが見てみたいと再三周囲に話していた。それを知っていたのだろうか、と少し、いやひどくうれしく思って、澄んで高い空に打ちあがる花火を眺めた。
「翼先輩……ありがとうございます」
「うぬ、でも俺がちぃと一緒に見たかっただけなのだ〜」
 ぬははと笑って、私の手を取り上げた先輩はふにゃ、っと笑みを浮かべて星を見よう、という。たぶん私もふにゃ、っとした笑みを浮かべているのだろうな、と思いながらはい、と笑った。
 花火の余韻で少し煙が残っていたが、風が通り抜けた後には跡形もなく煙は消え去って、冬の風は強いなぁと思う。
「あっ流れ星!」
「えっ」
 そういって翼先輩はえいっと星を捕まえるように手を空に伸ばした。ううん、見逃した……残念。
 クリスマスの流れ星だなんて、なんだかサンタさんみたいで願い事かないそうなのに。翼先輩は、くるりとこちらをむいて、なんだか満面の笑みで、
「お星さま捕まえた。ちぃにあげる」
「え……?」
 そういって笑顔のまま、私の手にキラキラと光る『お星さま』を落とした。『お星さま』は、私の手の中でも月明かりと星明りを反射して、キラキラと輝いていた。
「先輩、これ……」
 呆然と、手の中と先輩の顔を見比べる。先輩はぬははと笑いながら、冗談、とそういってふと目の色が、変わって。
「ぬ、プレゼント」
「でもお昼に……もらって……、」
 いつもの笑い方とは違う大人の微笑みで、違うよ、と言いながら私の手の中から『お星さま』をとりあげた。そしてそのまま私の掌をひっくり返すと、薬指をするっとなぜて、こっちはまたこんど、と言ってから、
「『恋人』としてのプレゼント、だよ」
 そういって、私の左の小指にするりと『お星さま』をはめた。私はただ、それを見ていることしかできなかった。
「……私、なにも用意してません……」
「ぬ?いいんだよ、俺がただ、ちぃにあげたかっただけだから。……もらって、くれる?」
 すこし屈んで、私の目を覗き込むようにして先輩は聞いた。はい、といった声はほとんどかすれて、聞こえなかったかもしれない。
 でも先輩はへにゃ、っと笑ってよかった、と言ってくれたのできっと聞こえていたのだと思う。どうしよう、すごく、うれしい。ああでも言葉に表せない、どうしよう、うれしい。
 私はもう、このうれしい気持ちをどう伝えたらいいかわからなくて、先輩にぎゅっと抱き着いた。先輩は、私から抱き着くことなんかめったにないのに驚いたのか、びっくりしたようだっけど、抱き着いたまま、ありがとうございます、といえば、うぬ!といって抱きしめ返してくれた。

 先輩に、左の小指は愛とか願いという意味がある、と教えてもらった私は、なんだか気恥ずかしくて、でもひどくうれしかった。きっと、流れ星に願いをかける前に小指に光る『お星さま』に願いを込めれば叶う、そんな気さえしてくる。
 翼先輩はこういうところでたまに不意打ちをしてくるので心臓に悪い、けど、でもそれでもうれしい思いが強いのは惚れた弱み、というやつかもしれないなぁと何となく思った。
 キラキラと輝く『お星さま』は、私の左の小指で輝いている。

『お星さま』キラキラ

(えへへ、)(何度見てもうれしい)