「せんぱあああああああああああああああいっちょっちょっちょっとかくまってくださっ」
 廊下の向こう側から全力で走ってきたちぃは、そういうと俺のカーディガンの裾を捲ってもぐりこむ。ちぃは小さいからそんなことしなくてもたぶん俺の後ろにいるだけで隠れられると思うんだけど……と思ったけど。
 なんだか背中でごそごそいっているのがこそばゆい。
「どーーーぉこいったああああああああああああああああ!!!!! 智里!!!!」
 そんな声がしたかと思えば芝生眼鏡先輩が目の前をすごい勢いで通過していく。あちら側へ曲がっていってしばらくした後、ちぃが俺の後ろでごそごそしている。
「翼先輩……いきました?」
 くぐもった声をだすちぃは走った余韻のためかまだちょっとあったかくて、隠れるためにぴったりとくっついていて、こうなんというかそわそわする。全部がちっちゃくて、……って変だ、最近こんなことばっかり考えている。
「いった、けど……何したんだ?」
 ちぃは『いった』という俺の言葉にほっとしたようにごそごそとカーディガンから出てくる。背中の熱が離れて行って、ほっとすると同時になんだか残念な気がした。残念? どうして?
「たか兄の本体をちょっと壊してしまって……」
「本体? 芝生眼鏡先輩はあれが本体じゃなかったのか?」
 ぼそりとちぃは言ったけど、本体? 芝生眼鏡先輩は本体が別にあったのか? ぬぬぬ、機械仕掛け?
「いやぁ言葉のあやですよ〜ちょっと眼鏡を壊してしまいまして……」
 そういって苦笑するちぃは、まだびくびくと芝生眼鏡先輩が言った方向をちらちらみている。眼鏡を壊した、ってちぃはいったい何をしたんだろう?
 眼鏡を壊して怒られたなら、眼鏡を直せば怒られないんじゃないか、って安直な考えから、直してあげる、と言ってちぃの手をとってラボへむけて歩き出した。ちぃははいと笑顔で頷いてちょこちょことついてくる。
 小さくはないけど、俺に比べればすごく小さいちぃの手。なんで俺こんなこと考えてるんだろう。

その手をつかんで、

(そらそらに見つかって結局怒られた)(ぬぅ、直せるのに!)