部屋に帰って、すぐにバスタオルを持って取って返す。そのままかぶせてわしゃわしゃと少し荒っぽいくらいに花穂をふいた。
「なんだよもー、こんなに綺麗なのそんなにないのにー」
 ぶーぶーと文句を垂れる花穂は、すっかりいつもの様子で。ここではじめてオレは安心して大きなため息が出た。
 この溜息を勘違いしたのか、花穂はむっとしたようになにか言おうと息を吸い込んだようだったが。オレが安堵からタオル越しに、初夏とはいえ雨を浴びて冷たくなった花穂の身体を温めるように抱き寄せたことで黙る。
 わぶ、というつぶれたような声だって、普段だったら色気のないとか、もうちょっとどうにかならないのかとか、文句がでるが、今日はそんな声だって"いつも"だと思えて安心するのだ。ぎゅうぎゅうと抱きしめ、雨の匂いの強く残る花穂の匂いを堪能する。花穂がどんどんと叩くものだから少しだけ腕をゆるめた。
「く、くるしい……死ぬかと思った……」
「あ、ゴメン」
 うっかり顔を胸に押し付けるようにして抱きしめていたようだった。肩の上に花穂のあごがくるように、オレのあごも花穂の肩にのせてあらためて抱き寄せる。
「……っていうか、どうしたのさー?」
「ん、なんか消えちゃいそうで、」
 こわかった、の部分は声がかすれてほとんど出なかった。笑うような振動が伝わって、いつのまにか伸びていた花穂の腕がオレの背中をなぜる。
「どこにもいかないよ、"ここ"にいるよ」
 そう笑う声は、手は、ひどく優しく甘くて。抱き寄せる腕に力を込めた。

抱きしめて、キスをして、

(優しいキスをくれるキミに)(甘いキスのお返しを)