キラキラと光を反射して輝く銀色は、その色のせいだけではなくひどく目を引いた。ぼうっと外を眺められるのは今が自習の時間だからで、都合のいいことに<彼>がいるクラスが体育でグラウンドにいるからだった。
 誰よりも楽しそうに、そうして誰よりも活躍している<彼>は、わりと仲のいい友人によくなついている一つ年下の後輩だ。半年前くらいまではよく噛みついていたのに、今となってはとてもよくなついていて、本人はわかっていない気もするが友人がひどく可愛がっているようでたびたびクラスにやってくるのを見かける。
 何故<彼>がこんなにも気になるのかと言えば、登校時のスクールバスから朝練なのか走っているのを目撃するからか、よく友人のところへとくるからなのか、――そんなことじゃないのはわかっていた。
 笑った顔が可愛い。ただ、それだけだった。
 いつだか見かけた自信に満ちあふれている笑顔ではなく、自慢げな笑顔でもなく、単に友人に頭をぐしゃぐしゃと撫でられたときの大人っぽい外見とはかけ離れた子供のような笑顔が、ひどくかわいくて――まったく知らないと言ってもいいはずの子が、愛しいと思えてしまったのだ。
 こんなこと誰にも言えるはずなくて、でも察しのいい友人はメンドクセェと言いながら<彼>と一緒に出る試合を見に来るかと誘ってくれるようになったのは誤算だった。友人――荒北という男は、こちらが気付いてほしくない時ばかりよく気付く、ひどく空気の読めない、もしくはひどく空気を読む気がない人物だ。
 わたしは荒北の率直な面が嫌いではない。荒北もわたしのことは嫌いではないだろう、何だかんだ友人をしているくらいなのだから。
 この試合に誘われるのが誤算だった理由としては――折角誘ってくれたのだしと自分の試合や練習がないときにはあししげく通ったせいなのだろうけれども――荒北とわたしが付き合っていると<彼>が誤解してしまったことがあげられる。
 別に<彼>と付き合いたいだとか、なんだとか、思っているわけではないのだけれど、なんだかひどくむなしくなるのは何故なのだろうか。嗚呼、これが恋なのか、などとバカらしいことを考えてみる。ただの現実逃避だけれど。
 キラキラと輝く髪を翻して、<彼>――黒田くんは走る。汗をぬぐうのに体操着の裾をそのまま持ってきていて、キレイなおへそがお目見えしたのだろうなぁ、と近くにいた女の子たちの反応を見ながら思った。
 運動なんかてんでできないわたしだから、一緒に運動したいなどとはまったく思わない。思わないけれど、それでも羨ましいと思うのは自由だろう。
「なぁ、」
 一つ前に座っている荒北がこちらを振り返ったときには、前を向いて取り繕うことができていなかった。「――ああ」そういってチラリと視線をグラウンドに向けて一際目を引く黒田くんを目に止めて納得したように声を出した。間違っていないけれど、なんだか釈然としない。
「それよりここどーなった?」
 それより、とはご挨拶だが、視線をグラウンドから外すいいタイミングではあったかもしれない。一人で見ていたら、このまま黒田くんがグラウンドから姿を消すまで視線をはずせなかっただろうから。
 一通り確認を終えたあと、プリントをそのままに視線をグラウンドに向けた荒北は「目立つな、アイツ」とだけこぼした。髪の毛が反射してるからかな、と小さく笑えばオマエの目にはそれだけじゃねぇだろ、なんて、たまったものではない。
 変に鋭く、変に聡い荒北は時にやっかいだった。面白がることもなくこちらに問いかけるのがつらい。お願いだから

それ以上踏み込まないで。