クリスマスのイルミネーションは、この時期どこに行ったって付いて回る。きらきらぴかぴかと輝くLEDライトはここ数年で非常に青が増えているなぁ、などとどうでも良いことを考えた。
 なんでそんなことを考えているのかと言えば、隣にいる先輩の視線が目の前の綺麗なイルミネーションではなくてこちらを向いているからである。「わーキレイ!」みたいなことを言う人でないし、むしろ「電気代どれくらいかかるのかな」などと真顔で言ってしまう人で、そんなところは嫌いではないが、なんとなく不思議な気分になる。
「……なんですか?」
 んー、と生返事の奏さんは少し下からオレを見上げていて、これが上目遣いにならないのが奏さんクオリティだった。純粋にきょとりと瞳を開いて、視線は合わないからオレの頭の方を向いているのだろうか。
「ユキちゃんの髪がキラキラしてて」
 伸びた手がふわりとマフラーの上の毛先をさらって、微笑んだ奏さんとやっと視線が合う。イルミネーションよりよっぽどキレイだなって。そう続けられた俺の頬だけではなく全身が熱を発して、思わず頭を抱えた。
「そういうのは普通、男が言うものでしょう……!」
 俺の反応が面白かったのか予想通りだったのか、たぶん後者なのだろうけれど、楽しそうな声をあげる奏さんにはははと乾いた笑みがこぼれた。楽しそうなのはいいけどな。俺をからかって遊ばないでくれ。
「でもだって、本当のことだもの」
 そう笑う奏さんの細められた瞳には、イルミネーションの光が閉じ込められているかのようで、俺の髪なんかよりもよっぽどキレイだと思った。そんなこと、口に出してなんか言えないなんてヘタレか。

据え膳食わぬ男か。

据え膳な訳ではないけど。