轟は実のところ非常に焦っていた。本人が男女交際というものに無頓着であり、結婚もご縁があれば、などと言っていたから、自分がうまく伝えられるまでフリーだと、そう思っていたのだ。
 それなのに、目の前の彼女は、お見合いがあるのだと、轟の耳がおかしくなったわけではないのなら、そう言った。「お見合い?」自分でも聞いたことのないようなすっとんきょうな声が出た、とそう思った。でも仕方ないだろう、今まで出したことのない声だって出る。
「お見合いです。いやあ、祖父母が心配しているみたいで……この間まであんたの好きにすればいいよーなんて言ってた親が、おじいちゃんとおばあちゃんがうるさいから一回だけお見合いしてほしいーって申し訳なさそうに言うものですから仕方なく。……というわけで、再来週のこの日はお休みください」
「休みは、別に構わない。お前有給余ってるだろ。もっと取っていい。でも……見合い?」
 まあ、ご飯一緒に食べるだけですよ、なんて笑っている彼女に、本当に破談にする気があるのかがわからないのが辛かった。『悪くない』という判断なら、面倒が増してそのまま結婚するという結末に落ち着いてもおかしくはないのだ。
 轟は、どうしようと思った。こんなところで言ってしまうはダメなんじゃないか。柚木が読んでいる本はいつだって『ちゃんとした』ところで告白なりプロポーズなりしていたのだ。そう、まずそもそも付き合うってなんだ、そのままプロポーズじゃダメなのか。お見合いってそんなもんだろ? 轟は混乱していた。今応援要請なり出動要請なりが来たとしたら左右を間違って使って大惨事になってしまうのではないだろうか? と悠長に考えているほどには混乱していた。

だいこんらん

「先輩? せんぱーい? ……ダメだこりゃ、聞いてない」