twilog/拍手log


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「……何してんだ」
「これですか? お茶淹れる前に湯呑み温めてるんですよー。湯冷ましできる上に淹れたあと冷めにくくなります」
「俺が淹れるのと違ぇなとは思ってたんだが全く違うんだな」
「面倒ですが一手間で格段に美味しくなりますよ!」
「今度教えてくれ」
「はい!」

「すみません、轟先輩いらっしゃいますか?」
「あら柚木ちゃん。轟ちゃんなら相澤先生に呼ばれていたからあと少しで戻ると思うわ、日直なのよ」
「蛙吹先輩! そうですか、ありがとうございます。それじゃあ少し待たせてもらってもいいですか?」
「ええ、もちろんよ」
 ケロケロと笑う蛙吹先輩がかわいらしくて、ほっこりと息をはいた。何度来ても上級生の教室は緊張する。それが、蛙吹先輩だけではなく、いろんな方々があたたかく迎えてくださるのとは別で。
 素敵なクラスだなぁ、とそう実感するたびにじんわりと緊張がとけるのだ。

 掌から伝わる温度が、少しだけ上がるのにあわせて口角も上がった。あの先輩が照れてる! 嬉しくなって、声も漏れた。
「なんだよ」
 不貞腐れたように少しだけ唇を尖らせるのにまた声が漏れて頬が上気した。先輩かわいいなぁ、なんて言ったら怒られるかな。

 ふにゃりとかへにゃりとか、そんなやわらかい笑顔で呼んでくれる後輩のことを、ただ純粋な後輩だと言いにくくなったのはいつの頃からだろうか。
「先輩」
 ああまた、ほら、またあたたかいものが内にあふれる。こぼれてしまうまで、あと──

「おい、寝るなら帰れ」
「かみんですかみん……にじかんでおきます……」
「あっおい! ……鍵のかかる仮眠室でも作るか? さすがにあぶねえよな」
「……」
「……まあ、二時間くらいなら俺もいるから大丈夫か。無理すんなよ」

「せーんぱい」
 ひょこりと教室に顔を出した後輩に、俺がいなかったら恥ずかしい思いをするのではと少しだけ心配する。出入口まで行けば、にこにこと笑うその姿に少しだけ胸の奥があたたかくなった。
「なんだ」
 そっけないことなんてわかっているその姿に安心するなんて、
「おまえの手、結構でかいよな」
「昔ピアノやってたからですかね? いろいろ作業しやすくて助かりますよ!」
「俺とそうかわんねえもんな。……でもやっぱりやわけえんだな」
「そりゃヒーローと比べればみんなやわこいですよ」
「それもそうか」
「あれ?」
 珍しく仮眠をとっている先輩に毛布がかかっている。いつもはそのまま寝ていて風邪を引かないかちょっと心配だったのだけれど。よく毛布を見ればわたしが贈ったもので、ちゃんと活用してくれているのだなあ、と安心した。