上鳴はひょこりと教室を覗いている影に気が付いて、声をかけた。見たことのない女の子であったし、あわよくばそのままご飯に誘おうという下心があったことは否定できない。
「どうした? 誰かに用事? 呼ぼうか?」
 ぱっと顔を上げた彼女があまりにも嬉しそうに笑うので、これはもしかしたらもしかするんじゃね? と上鳴の胸は期待に膨らむ。ありがとうございます、ええと、と続けた彼女に、うん、とはやる心を押さえてキリッと顔を作った。
 と、その女の子の頭に手が乗って「何してんだ」と声がかかったのに視線をあげると、不思議そうな顔で上鳴を見ている轟と目があう。「轟先輩!」と上がる声に、え、ナニ、轟の知り合い? と上鳴は少しだけ混乱した。
 なんだ、俺目当てじゃないのか、といささかがっかりしたように肩を落とした上鳴は、おもわず「轟だっかー」と声をこぼした。轟のこと先輩って呼んでるるってことは、つまり後輩。なんだよ轟、お前キョーミありませんって顔してちゃっかり後輩と繋りあるんじゃねえか。
 上鳴がそんなことを考えていると、件の彼女が上鳴に向き直り、「あっ先輩ありがとうございました!」と笑顔でお礼を言ったので上鳴の機嫌は上向いた。単純だって? 男なんてそんなもんさ。
 きょとりとしたまま彼女と上鳴を交互に見る轟の手は、あいかわらずそのまま彼女の頭の上に乗っている。先輩先輩、とてしてしとその手を叩く彼女に、なんだよイケメンくそう、と上鳴は心の中で吐き捨てた。さすがに口に出しはしない、だって彼女がいるのだから!
 もう俺は必要ないか、と「じゃーね」と笑顔で上鳴は踵を返す。その後ろ姿に轟から「さんきゅ」と声がかかり、なんだよ後輩じゃなくて彼女かよ! とキレかけた。

誘う前に撃沈

 その夜に、「彼女かよ!」と嫉妬に塗れた表情で詰め寄る上鳴は「? 小中の後輩」とだけ返した轟と彼女に少しだけ泣いた。あれで? 後輩? イケメンくそう、と上鳴は今度こそ口に出して吐き捨てた。