とある大学のとある研究室。ヒーローショートは自身のヒーロースーツの改良のためにそこに訪れていた。
「いやぁ、いくら彼女のおかげて我が研究室にスポットが当たったとはいえ、無名の研究室によく来てくれたよ、ショートくんありがとうね」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
 初老の教授はにこにこと人好きのする笑顔を浮かべ、ショートに向き合う。個性であろう、異形型の耳をふるふると震わせた様は心から嬉しそうだ。
 ショートもまだ若いとはいえヒーローだ。人が喜ぶ姿は純粋に嬉しい。
 てきぱきとショートの身体から測定器を外し終えた彼女──小中学生だけではなく、高校まで後輩となった彼女は「おしまいです、お疲れ様でした」と着てきていた洋服を手渡す。受け取ってもぞもぞと着始めるショートを横に、取ったデータを操作した彼女は満足気だ。
 人が喜ぶ姿──特に、彼女が嬉しそうだと自分がひどく嬉しいのだとショートが気付いたのはいつ頃だったか。ヒーローショートとしてではなく、轟焦凍として嬉しいのだ。そこは混同してはいけない。
「先生、大丈夫そうです。これ、来週までにまとめておきますね」
「おお、よかったよかった! ショートくんに来てもらった甲斐があったなあ。急がなくても大丈夫……と言っても君は楽しいとすぐにやってしまうからね。あまり無理はしないように」
「はあい」
 ぱたりと端末をしまう姿に、楽しそうに目を細めた教授はもう一度ショートに向き合った。
「結果と応用例は彼女から直接連絡させるので、のんびり待ってくれると嬉しい」
「先輩、楽しみに待っててくださいね!」
「おう。……楽しみにしてる」
 ショートが手を伸ばして頭を撫ぜると、彼女はひどく嬉しそうに笑った。その姿に頬が緩むのがわかったショートは、ぐっと頬に力を入れて無表情を保った。かろうじて、教授の前だと思い出したのだ。

ヒーローとしてではない

 もう、遅かったかもしれないが。