図書室の奥の、ほとんど人がこないような古典外国文学の棚の横の椅子に、そいつはいた。声をあげるでもなく、顔を歪めるでもなく、ただはらはらと涙を流している瞳は、なにも映していないかのように虚ろだった。
──ただ、綺麗だと思った。踏み込んではいけないと、そう思った。
それなのに、気が付いたら足が進んで目の前で止まってしまったのだ。そんな自分自身にため息を吐きたくなるが、ぐっと飲み込んでその頭に手を伸ばした。
「……またここにいたのか」
そっと囁くようにこぼした声は、それでも静かな図書室には柔らかく響いた。自分の声が、こんなにも柔らかく響くなんて初めて知った。
やわく頭を撫で付ければ、はっとしたように顔を上げて、唇を噛み締める。ずぴ、と鼻をすする音に、ひとまずティッシュを押し付けた。柔らかいやつじゃなくて悪ィな。
「……ありがとうございます」
よくわからないまま、泣いている後輩をそのままにしておけなくて、なんとなく胸騒ぎのするときは必ず覗くようになってしまった。使っていないタオルを頭からかぶせて、隣の椅子に腰かける。ここの棚の本は、読み終わってしまいそうだった。
「せんぱい、」
柔らかな声
半分ほど読み進めた頃だろうか、そう呟く声は鼻声で見えもしないのに鼻が真っ赤なんだろうな、と漠然と思った。