ピロリロリーン、と軽快な電子音が流れたそれに、轟は少しだけ困惑する。昼休みに、少しだけ喉が渇いて自動販売機で飲み物を買ったら当たったのだ。いつもなら緑谷や飯田にやればいいと思えど、二人とももうすでに買った後。轟も二本はいらない、このまま放置してもよいものか、と迷う。すぐ次の人が来ればその人に譲ろうか、いや不審者になりかねねぇか? と考えたところで後ろに見知った気配を感じ、轟は正直なところ助かった、と思った。
「あれ? 轟先輩こっちの自販機にいるの珍しいですね」
 こんにちは、と挨拶をする柚木に挨拶を返すよりも先に選べ、と声が出た。えっ? と戸惑う後輩に、当たったんだがみんな買ったあとでいらねぇんだ、と説明するとパッと破顔して「じゃあ遠慮なく」とお茶のボタンを押した。こういうときに遠慮しないある種の潔さが、轟と縁を繋ぎ続けている。
「助かった」
「いえいえ、こちらこそお茶代浮いて助かりました。ありがとうございます!」
 にこにこと笑う姿に、困っていたはずなのに当たって良かった、と思ってしまったのはいささか現金だろうか。思わず手を伸ばして頭を二度軽く叩いた。撫でるよりも、そちらの方が気軽だと轟は考えている。
「ありがとうございました!」
 もう一度笑顔で言った柚木に、おう、とすこしだけ目元を緩めた轟は、それぞれのクラスへ向かうために背中を向けた。

あ た り