たまたまだった。そう、たまたま以外にあり得ない、こんな夜更けに先輩に会うなんて。
「こんな真夜中になにしてんだ」
「先輩こそ」
 へへへ、なんて笑ってごまかしても先輩の眉間のシワは消えなかった。でも、理由を言ったって先輩の眉間のシワは消えないのはわかっている。何年の付き合いだと思っているのか。
「今日は流星群があるんですよ」
 しょうがない、とばかりにこぼした声は、抑えられているにも関わらず、澄んだ空気には存外大きく響いて少しだけ焦った。りゅうせいぐん、と繰り返す先輩の眉間のお山はやっぱりそびえ立ったままだった。うんうん、知ってた知ってた。
「夜中でなくたって見えんだろ」
「極大は十一時ですよ」
 見えるのは知ってる。今日もずっと空を見上げながら歩いたのだから。でも、それでも極大の時間に街灯のない暗い山から流星群を見てみたかったんだ。寮だからこそできることだ、外出許可はちゃんととっている。
「……ハァ。付き合う」
「えっ!? 先輩ご予定があって出てたんじゃないんですか!?」
「ただのロードワークが押しただけだから問題ねぇよ。それよりお前がもっと遅くまで出てる方が心配だ」
 心配させんな、と頭を小突いてくる先輩はやっぱり優しい。ごめんなさい、よりもありがとうございます、をのせた声に、やっと眉間のお山は取り壊された。なまじ整ったお顔をしているせいか、眉間にシワがよるとめちゃくちゃ怖いんだよね、美人が怒ると怖いと言うのは本当だったのだ。
 へへへ、と笑いながら昼間のうちに見つけておいた穴場スポットへと先輩をご招待する。「ここ、すごくないですか?」「へぇ、よく見えるもんだな」近くに外灯もない、見えるのは遠くの街明かりだけ。あとは、もう頭上に広がる星の海。極大まではまだ時間があるが、ぽつぽつともうすでに流れ始めた星を見て持ってきていたレジャーシートを広げてその上に寝転んだ。
「先輩もどうですか?」
「ん、じゃあ邪魔する」

星月夜

 二人で寝転んで見上げた夜空は、月がないのに流星群で輝いてひどく明るくて。きらきらと輝く流れ星に、そっと願いをのせた。